図1 I型アレルギー反応時の血管のイメージ
血管が拡張し、細胞と細胞の隙間から液体が漏れて
膨疹(蕁麻疹)や鼻水などが生じる。
指導医 これが鼻で起こると、鼻が詰まって鼻水が出ます。肺なら粘膜が腫れるので空気が通りにくくなって喘鳴が出て痰も出ます。食物アレルギーでは、消化管が腫れて詰まるので腹痛と下痢も起こります。これがアナフィラキシーになると、全身で反応が起こるので、血管内のボリュームが足りなくなって血圧が下がってショックになります。このように、臓器ごとに出る症状は、血管が広がって液体が漏出するという共通した機序から起きているんです。
研修医 でも、アナフィラキシーの時は抗ヒスタミン薬だけだとあまり効果がありません。それはどうしてですか。
指導医 抗ヒスタミン薬は血管のヒスタミン受容体にヒスタミンより強く結合しますが、既に受容体に結合しているヒスタミンを無理やりはがすわけではなく、ヒスタミンが付いたり離れたりしている間に抗ヒスタミン薬が置き換わっていくのです。
まだヒスタミンが結合していない受容体はふさぐことができますので、アレルギーが軽いうちに服用した方がずっと効き目は良くなります。ですから、抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬は、夜または起床後すぐに使って、外出して花粉などに曝露するころに血中濃度が高まっているようにすると、より高い効果が得られます。眼薬や鼻のスプレーの場合も同じです。では、アナフィラキシーの時にはどうしたらいいと思いますか。
研修医 血管が広がっているわけですから、直接血管を収縮させる薬を…あ、それでアドレナリンを使うんですね。この前、アドレナリンは皮下注では血管が収縮してしまって吸収が悪いので筋注と習ったのですが(第2回)、筋肉でも血管が収縮して吸収が悪いんじゃないでしょうか。
指導医 アドレナリンはどういう時にたくさん出るか、分かりますか。
研修医 えっと、ストレスが強い時…でしょうか?
指導医 そうです。一説によれば、ストレスというのは敵に出合った時の反射で、走って逃げるための反応のようです。皮膚の血管は収縮しても、筋肉の血管は逆に拡張して血流を集めて速く走れるようになるようです。そうでないと食べられてしまいますからね。いわゆる火事場の馬鹿力というのもこれかもしれません。
研修医 そういえば、以前妻がバーベキューの肉をのどに詰まらせたときのハイムリッヒは、ものすごく力が出たのを覚えています。
指導医 ああ、まあそれもそうかもしれません(笑)。それで、奥さんの話に戻りますが、ほかにI型アレルギーの特徴は見当たりますか。持続時間、全身性かどうか、既往歴、家族歴などが重要ですね(表1)。今のところ、持続時間が数日以上にわたっていること、既往歴と家族歴がないことは、どちらかというとI型アレルギーではない方に当てはまりますね。発症までの時間と、皮疹の部位はどうですか。
表1 I型アレルギーの特徴
発症までの時間 |
数分 |
持続時間 |
数時間 |
発症部位 |
全身のことが多い |
I型アレルギーの既往 |
あることが多い |
アレルギー疾患の家族歴 |
あることが多い |
抗ヒスタミン薬 |
効果があることが多い |
研修医 エビを食べたのがお昼で、かゆみが出てきたのは夕方です。あと、かゆいのは顔と首のところです。あれ、これじゃI型の特徴には何も当てはまりませんね。でも、どうしてかゆいのに抗ヒスタミン薬が効かないんですか。
指導医 I型アレルギーにはヒスタミンが関与していますが、II型は抗体を介した細胞障害なので、赤血球に抗体が結合して、それをキラー細胞などが壊す溶血性貧血のような反応を起こします。III型は血清病のように異物と抗体が免疫複合体を作ることにより補体が活性化されて起こる反応です。IV型はT細胞性のアレルギーで、T細胞と一緒に反応を起こす細胞の違いでIVa〜IVdの4種類に分類できます。IV型にはかゆみが主体の接触性皮膚炎から重症薬疹のような重篤なものまでありますが、細かい話は今日はやめておきましょう。
いずれにせよ、非I型のアレルギーにはヒスタミンは関係ないんです(表2)。T細胞がヒスタミンを持っているという話は聞いたことないでしょう。
表2 アレルギー反応の分類
参考文献:Immunol Allergy Clin N Am 2004;24:373-97.
研修医 確かにそうですね。では何が原因だったんでしょうか。
指導医 先生の奥さん、顔に何か塗られたんじゃないでしょうか。アレルギー性接触性皮膚炎は48時間ほどたってから症状が出ることが多いので、このことを知らないと患者さんは因果関係に気付かないことが多いんです。先生もIV型アレルギーの1つのツベルクリン反応は48時間ほど経ってから測定するでしょう?
研修医 なるほど、接触性皮膚炎ですか。水曜日に症状が出たので、月曜日が怪しいということですね。妻に聞いてみます。
指導医 接触性皮膚炎ではインターロイキン(IL)-31などがかゆみをの原因と考えられています。治療としては、一般に、副作用が出ないように気をつけながら短期的にステロイドを使うことになりますね。
《数日後》
研修医 先生、この前はありがとうございました。
指導医 ああ、それでどうでした?
研修医 先生から言われた通り妻に聞いてみたら、月曜日にエステに行って泥状のものを顔に塗ったそうです。2日も前だったので、皮疹とは関係ないと思っていて、なんとなく言いにくかったから教えてくれなかったそうです。
指導医 やはりそうでしたか。
研修医 はい。週末にステロイドを使ったところ、皮疹もかゆみもすっかりよくなりました。そういえば、以前、外来で植物を触ってかぶれた人が来たときに抗ヒスタミン薬を処方したところ、看護師さんから「ステロイドを出した方がいい」と教えてもらったことがあります。これまで、アレルギーを診るときに、I型か非I型かを分けて考えていなかったことがよく分かりました。ありがとうございました。
【参考資料】
1)岡田正人:第1章アレルギー疾患の診方・考え方,レジデントのためのアレルギー疾患診察マニュアル,医学書院,2006.
2)岡田正人:第1回「アレルギー疾患の診方・考え方」,Dr.岡田のアレルギー疾患大原則(第1巻),ケアネットDVD,2007.