「必要な治療を否定、断じて容認できない」、
日本動脈硬化学会
10月20日、日本医師会・日本医学会・日本動脈硬化学会は、合同で記者会見を開き、日本脂質栄養学会が発表した「長寿のためのコレステロールガイドライン2010年版」について、「科学的な根拠がない」とする日本動脈硬化学会の声明を発表した。
原中勝征・日本医師会長は、「科学的な根拠がなく、患者を誤った方へ導くもの。国民は報道の影響を受けやすく、コレステロールについて治療をしない方が長生きすると誤解すると、大変危険。国民に正しい理解をしていただくとともに、マスコミにも一時の軽々な発表に基づいて国民の健康を損ねることがないようお願いしたい」と述べた。高久史麿・日本医学会長も、「学問的に考えても無茶な理論。死亡の原因は多くあり、そのうちの一つだけを取り上げて死亡と結びつけることには全く科学的根拠がない。日本の死亡原因の第2位である、動脈硬化による脳梗塞・心筋梗塞に、コレステロールの高さが関係していることは、世界的にも証明され、認められている。日本脂質栄養学会は日本医学会には加入していないが、一つの学会がこのようなことを発表したのは非常に残念だし、誤ったことだ」とした。
寺本民雄・日本動脈硬化学会副理事長は、日本脂質栄養学会ガイドラインについて、(1)当該ガイドラインで引用されている中心的な論文は、ほとんどが査読を受けていない論文であり、学術論文の科学性を担保されているとは言えない。また、これに基づくメタ解析も、科学的信頼度が高いと見做すことはできず、そのようなガイドラインを“ガイドライン”と呼ぶことは容認できない、(2)コホート研究において、血清コレステロール値と総死亡との関係を論じているが、多様な原因で起こる死亡とたまたま死亡の数年前に測定された血清コレステロール値との関係に因果関係を求めることは本来無理があり、結論は極めて慎重に導き出す必要がある。血清コレステロール値が患者の栄養状態や顕在的潜在的を問わず疾病の存在を反映することは医の常識であり、特に肝疾患で血清コレステロール値が低下することは診断学的にも用いられている。このような背景を持つ人々の短期の死亡率が高くなる可能性があることも医の常識である、(3)観察研究であるコホート研究と臨床介入試験との違いを混同している。このため、血清コレステロール値を下げると死亡率が上がるという憶測にたどり着く可能性が生じ、決定的な過った解釈を導く可能性が生じる、とする3つの問題点を指摘。
「これまでに発表された、科学的検証に耐え得る臨床介入試験のメタ解析の結果では、LDL 低下薬(スタチン)で血清コレステロール値を下げても総死亡が増加することはなく、むしろ統計学的に有意に減少することが証明されている。また、多くの臨床介入試験の結果によれば、血清コレステロール値が高い人々を治療して動脈硬化性疾患を予防できることは、科学的にほぼ完全に確立された事実。コレステロールもしくはLDL コレステロールと動脈硬化の関係については、病理学的研究、細胞生物学的な基礎研究でも証明されている」(寺本氏)と説明し、「当該“ガイドライン”が発表されて以来、高いリスクを持つにもかかわらず服薬をやめたいという患者も出てきていると聞く。日本動脈硬化学会は、科学的根拠なく、必要な患者の治療を否定するような“ガイドライン”を断じて容認することはできない」(同)と強調した。
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