肥満になると毛細血管の働きに異常が生じ、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が全身の筋肉に届きにくくなることを、東京大などの研究チームがマウスの実験で解明した。インスリンが届かないと、筋肉が血液からブドウ糖を取り込めず、高血糖状態が続いて糖尿病を発症しやすくなるという。2日付の米科学誌セル・メタボリズムに掲載された。
健康な人では、食後に血糖値が上がると、膵臓(すいぞう)のβ細胞からインスリンが分泌され、血液を通じて全身に届けられる。筋肉は、インスリンが到達したことが引き金となって、ブドウ糖を取り込みエネルギーに変えるが、インスリンが毛細血管から筋肉に届く仕組みはこれまで不明だった。
研究チームは、インスリンが到達したことを他の分子に伝える物質「IRS2」に着目。毛細血管の細胞にIRS2を持たないマウスは、通常のマウスと比べて、筋肉に届くインスリンの量が半分程度に減っていた。「インスリンが届いた」という信号が他の分子に適切に伝わらないため、インスリンを血管の外の筋肉に送り出すための仕組みが機能しなかったからだという。
さらに、普通のマウスに脂肪分の多い餌を8週間与えて肥満状態にしたところ、IRS2が健康なマウスの2割程度しかなく、インスリンが血管から筋肉に届きにくくなっていた。
研究チームの門脇孝・東京大教授は「IRS2を増やす薬剤が開発できれば、生活習慣などが影響する2型糖尿病の根本的な治療になりうる」と話している。【大場あい】