人間が生きていく上で、呼吸が必要なことは言うまでもない。だが、意外に見過ごされているのが呼吸の仕方だ。実は、日本人の多くは無意識に口で呼吸しており、これを鼻呼吸に変えるだけで、健康増進に効果があるという。手軽にできる鼻呼吸法を紹介する。 |
「例年ならこの時期は、花粉症を抑える薬の世話になっている。それが今年は今のところ、鼻水も出ないし、全く薬を使っていない」と話すのは、キャスターの生島ヒロシさん。その理由と考えているのは、昨年夏ごろから始めた鼻呼吸だ。
「口呼吸をしないようにしたら、のどの状態が良くなり、風邪もひきにくくなった。免疫力が向上した気がする」という。自らの体験などをまとめた「生島ヒロシのこれで元気に!『手間名なし』健康法」(日本経済新聞社)では、リウマチの病状が改善した人のエピソードも紹介している。
人間は鼻と口の両方で呼吸できるが、ほ乳動物は普通、鼻だけで呼吸する。言葉を話す人間は、気管から口へ空気が出せるよう、気管が鼻だけでなく口ともつながっている。このため口でも呼吸できるのである。
鼻から吸った空気は鼻腔(びくう)を通る間に浄化、加湿され、肺が酸素を吸収しやすい形で送り込まれるのに対し、本来呼吸器官でない口で吸った空気は、空気中に漂う細菌やウイルスなどの有害物質がろ過されないまま、直接、体に取り込まれてしまう。
こうした有害物質が「鼻の奥にあるリンパ組織の集まりで、白血球を作る扁桃(へんとう)などを直撃、免疫力の低下を招く」と解説するのは、生島さんに鼻呼吸を勧めた、東京大学医学部の西原克成講師だ。
1.朝起きると、のどがヒリヒリする
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2.唇がいつもカサカサに乾いている
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3.食べる時に、クチャクチャ音を立てる
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4.無意識のうちに口が半開きになっている
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5.いびきをかいたり、歯ぎしりをする
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6.横向きやうつぶせになって寝るくせがある
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7.上下の唇で厚さに著しい差がある
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8.口の端がいつも下がっている
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9.歯の噛み合わせが悪く、片側でかむくせがある。
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10.歯並びが悪く、歯と歯の間にすき間が多い。
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(注)東大・西原講師による。
ひとつでも当てはまれば、口呼吸癖の可能性あり。
2つ以上なら、可能性大
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口呼吸が風邪や花粉症、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、間質性肺炎など様々な病気を引き起こしているといい、実際、東大病院では鼻呼吸を取り入れてそうした患者を治療してきた。
口呼吸で常に口を開けていると、口の周囲が緩んで舌が気道をふさぐようになり、睡眠時に呼吸が止まったり、昼間、突然激しい眠気に襲われる睡眠時無呼吸症候群の原因になることも知られている。口内が乾燥し、歯ぐきが傷つきやすくなるため、歯周病にかかりやすい、と指摘する歯科医もいる。
実は、口呼吸する癖があると自覚している人は少ない。生島さんも「矯正法試してみるまで、自分でも気が付かなかった」。にもかかわらず、日本人の大半は口呼吸しているという。
欧米では、3、4歳まで使わせることも多い赤ちゃんのおしゃぶりを、日本では1歳前後でやまてしまう。「鼻呼吸の訓練にもなるおしゃぶりを早くに取り上げてしまうことが、鼻呼吸が身につかない原因」(西原講師)との説もある。
では、普段、口呼吸している人が、自然な鼻呼吸を身につけるにはどうしたらいいか。昼間は意識して口を閉じ、鼻だけで呼吸するように心掛ければ良い。背筋を伸ばし、胸を張り、肛門(こうもん)を締めるようにして腹式呼吸する。
睡眠時には、薬局などで売っている紙製の粘着テープを使う方法がある。閉じた唇の上にテープを縦に1本、または逆「ハ」の字形に2本張る。鼻呼吸しやすいよう、鼻孔や鼻腔を広げる市販の器具を使うのも効果的。苦しい時、すぐはがせるよう、テープを横に張ったり、粘着力の強いテープを使うことは避ける。
マスクをぬるま湯などに浸したうえで適当なところで外側に折り返し、鼻は出して口だけ覆って寝る、という方法もある。
鼻呼吸はお金も時間もかからない手軽な健康法。体に不調を感じている人は早速試してみてはいかが。
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