指導医 ちなみに、アスピリンやNSAIDsに対する過敏反応は、こういった呼吸器症状を呈するもの以外にもいくつかあります。この表を見てください(表1、引用文献1)。先ほど説明したAERDのほかに、皮膚症状が主なものがあります。
表1 アスピリンやNSAIDsに対する過敏反応の分類
反応の種類 |
背景疾患 |
他のCOX-1阻害薬との交差反応 |
呼吸(アスピリン喘息) |
鼻炎、鼻茸、副鼻腔炎、喘息 |
あり |
蕁麻疹/血管浮腫 |
慢性蕁麻疹 |
あり |
蕁麻疹/血管浮腫 |
なし |
あり または なし |
アナフィラキシー |
なし |
なし |
もともと慢性蕁麻疹がある方では、COX-1阻害作用を持つ薬を飲むことで、蕁麻疹や血管浮腫が悪化することがあります。この場合は、種類の異なるCOX-1阻害薬を飲んでも反応が出てきます。一方、そういった基礎疾患がない人でも、NSAIDsを飲んだ時に蕁麻疹や血管浮腫が急性に発症することがあります。この中には、特定の種類のNSAIDsだけに反応して蕁麻疹が出るタイプと、先ほどのように、種類に関係なく出てくるタイプとがあります。もちろん、そのほかに、アナフィラキシーを起こす方もいらっしゃいます。
研修医 いろいろとあるんですね。ところで、AERDは1型アレルギー時反応とは異なるということは、IgEの検査や皮膚テストなどは診断の役に立たないということですね?
指導医 その通りです。診断への第一歩は、しっかりと病歴を聞くことです。患者さんの病歴が、AERDの症状や発症様式に合致するものであるかどうかが大切となってきます。
確定的な診断を得ようとする場合は、アスピリン負荷試験を行うことになります。その方法の1例を見てみましょう(表2 Stevensonらの方法、文献2)これはある程度危険も伴う試験ですので、十分な経験のある施設で行うことが大切です。
表2 アスピリン負荷試験の一例
アスピリンの量 |
時刻 |
1日目 |
2日目 |
3日目 |
7:00 |
プラセボ |
30mg |
100〜150mg |
10:00 |
プラセボ |
45〜60mg |
150〜325mg |
13:00 |
プラセボ |
60〜100mg |
650mg |
陽性はFEV1.0が20%の低下またはFEV1.0が15%以上低下かつ気道以外の症状が出現(鼻汁、鼻閉、顔面紅潮、皮疹、結膜充血、消化器症状など)の場合
研修医 それでは、AERDの患者さんが解熱鎮痛薬を必要とする場合は、どうしたらよいのでしょうか?
指導医 そうですね。COX-1阻害作用のある薬では症状が出てしまいますので、そういったものは避けなければなりません。
一つの方法としては、COX-2を選択的に阻害する薬を使うという方法があります。ただ、それでも反応が起きてしまったという症例報告もあるので、慎重にしなければなりません。また、日本の添付文書上は禁忌となっているので、現実的には使いにくいです。
そこで、安全に使えるかどうか負荷試験を行う方法があります。例としてセレコキシブの負荷試験の方法を見てみましょう(表3)。セレコキシブはCOX-2阻害薬なので、先ほどの表に出てきたような、慢性蕁麻疹が背景にあり、Cox-1阻害薬で蕁麻疹が出てくるような方でも、基本的には用いることが可能だといわれています。なお、メロキシカムも低用量であればCOX-2を有意に阻害しますが、量が増えてくるとCOX-1阻害作用が増えてきますので、避けた方がよいでしょう。
表3 セレコキシブ負荷試験の一例
時刻 |
投与量 |
8:00 |
10mg |
10:00 |
30mg |
12:00 |
100mg |
14:00 |
200mg |
FEV1.0が15%以上低下した場合は試験を中断。FEVは15分から30分おきに測定かつ症状が出現時に測定
研修医 なるほど。セレコキシブなどは使える可能性があるんですね。では、アセトアミノフェンをAERDの方に用いるのはどうなのでしょう?
指導医 アセトアミノフェンにもCOX-1阻害作用があります。ただ、結構な量を飲まないと症状が出るほどの十分なCOX-1阻害にはなりません。欧米のstudyですが、500mgのアセトアミノフェンでは症状は出なかったが、1000mgだと28%の人に軽い症状が出て、1500mgだとさらに6%に反応が出たという報告もあります。
研修医 では、毎日アスピリンを飲まないといけないような方はどうしたらよいのですか?
指導医 そういった方の場合は、アスピリンの減感作をすることになります。例を示しましょう(表4)。AERDの患者さんに対するアスピリンの減感作によって、副鼻腔感染、ステロイドの使用量、嗅覚障害の改善、鼻、副鼻腔、喘息の自覚症状の改善などがみられ、5年間のフォローアップでもその効果は有意に見られていたとの報告もあります。
ただし、この方法は、アスピリンへの過敏症を根本的に取り去ってしまうというものではありません。いったんアスピリンを飲むのをやめてしまうと、再度飲んだ時には反応が出てしまいます。
表4 アスピリン減感作の一例
時刻 |
投与量 |
8:00 |
20.25mg |
9:30 |
40.5mg |
11:00 |
81mg |
13:30 |
162.5mg |
15:00 |
325mg |
FEV1.0を少なくとも90分ごと、あるいは症状出現時に測定。投薬は最大3時間ごとまで延長可。FEV1.0がベースラインより15%低下した場合治療を行う。その際、最後のアスピリン投薬から3時間以内に状態が落ち着いた場合は、最後の投薬と同量から再開。その量が耐えられれば、増量を再開。3時間以上した時点で、改善がない場合はその日は中断、翌日より症状が起きた同量から再開する。大抵は2日で完了する。
研修医 そうなんですね。
指導医 とにかく、その患者さんからもう一度しっかりと病歴を取る必要がありますね。
研修医 はい。そう言われるだろうと思って、先生の明日の外来の予約をとっておきました。
指導医 またですか(笑)。
研修医 よろしくお願いします!
【参考文献】
1)D. A. Khan, and R Solensky. Drug allergy. J Allergy Clin Immunol 2010;125:S126-37.
2)Middleton's allergy: principles and practice, 6th edn. Philadelphia: CV Mosby; 2003:1695-1710.
3)D. D. Stevenson, and A. Szczeklik. Clinical and pathologic perspectives on aspirin sensitivity and asthma J Allergy Clin Immunol 2006; 118:773-86.
4)M. P. Berges-Gimeno, R. A. Simon, and D. D. Stevenson. Long-term treatment with aspirin desensitization in asthmatic patients with aspirin-exacerbated respiratory disease J Allergy Clin Immunol 2003;111:180-6.
5)岡田正人:第7章 薬物アレルギー,レジデントのためのアレルギー疾患診察マニュアル, 医学書院:189-272,2006
田巻弘道、岸本暢将、岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科〔成人、小児〕)