アスピリン喘息にも使える消炎鎮痛薬は?

アスピリン喘息にも使える消炎鎮痛薬はありますか?


研修医 先生、最近救急外来で診た患者さんのことでご相談してもいいですか?

指導医 今回はアレルギーですか? それとも膠原病?

研修医 アレルギーです。先日の夕方に救急外来にいらした30代半ばの女性患者さんなんですが、婦人科を受診した後に出勤する途中、電車の中で突然鼻が詰まり始めて、息苦しくなってきたそうです。途中の駅で下車して、タクシーで救急外来にいらっしゃいました。

指導医 なるほど。どのように治療したのですか?

研修医 バイタルサインは少し頻脈気味でしたが、それ以外は安定していて、聴診すると全肺野にwheezeが聞こえました。喉や唇の腫れはなく、皮疹もありませんでした。ネブライザーでサルブタモールを吸入していただいて、症状がすっかり良くなったので、喘息発作と診断して帰っていただきました。

  ただ、その後、患者さんが電車に乗る前にロキソプロフェンを飲んだと言っていたのを思い出して、ひょっとしてこれは通常の喘息ではないアレルギーなんじゃないかと…。

指導医 問診では何かほかに聞きましたか?

研修医 ロキソプロフェンは初めて飲んだようです。今まで飲んだことはなかったとおっしゃっていました。喘息は、以前カナダに住んでいたときに、喘鳴のような症状が出現したことがあり、しばらく吸入薬を使い、その後は落ち着いていたようです。

指導医 そうですか。鼻炎の症状はどうですか?

研修医 鼻炎…? それは聞いていません。どうして鼻の症状を聞くんですか?

指導医 この患者さんはAspirin-exacerbated respiratory disease(AERDアスピリン喘息)なのではないかと思いましてね。アスピリン喘息は、副鼻腔炎、特に鼻茸がある人に多いのですが、単なる鼻炎の症状だと思っている人もたくさんいます。

研修医 アスピリン喘息って、アスピリン以外でも起こるんですか?

指導医 もちろんです。アスピリンだけでなく、COX(シクロオキシゲナーゼ)-1阻害作用のある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であれば症状は起きます。典型的には、アスピリンやNSAIDsの内服後に、鼻の症状と喘息様症状が出てきます。アナフィラキシーのように皮疹や消化器症状が出ることはまれです。

研修医 COX-1阻害作用のあるものには交差反応があるということですね。これってアレルギー反応なんですか?

指導医 症状は1型アレルギーの症状と似ていますが、いわゆる1型アレルギー(IgEを介した機序)とは異なった機序で起きていますので、1型アレルギーのような皮疹、消化器症状といったものはあまり現れません。AERDの機序はまだ完全には解明されていませんが、アラキドン酸の代謝においてシクロオキシゲナーゼ活性が阻害されることで、ロイコトリエン系の産生が過剰になって起こると考えられています。ですので、分子構造が全く違うNSAIDsでも、同じように起きます。

研修医 なるほど

指導医 ちなみに、アスピリンやNSAIDsに対する過敏反応は、こういった呼吸器症状を呈するもの以外にもいくつかあります。この表を見てください(表1、引用文献1)。先ほど説明したAERDのほかに、皮膚症状が主なものがあります。

表1 アスピリンやNSAIDsに対する過敏反応の分類
反応の種類 背景疾患 他のCOX-1阻害薬との交差反応
呼吸(アスピリン喘息) 鼻炎、鼻茸、副鼻腔炎、喘息 あり
蕁麻疹/血管浮腫 慢性蕁麻疹 あり
蕁麻疹/血管浮腫 なし あり または なし
アナフィラキシー なし なし

 もともと慢性蕁麻疹がある方では、COX-1阻害作用を持つ薬を飲むことで、蕁麻疹や血管浮腫が悪化することがあります。この場合は、種類の異なるCOX-1阻害薬を飲んでも反応が出てきます。一方、そういった基礎疾患がない人でも、NSAIDsを飲んだ時に蕁麻疹や血管浮腫が急性に発症することがあります。この中には、特定の種類のNSAIDsだけに反応して蕁麻疹が出るタイプと、先ほどのように、種類に関係なく出てくるタイプとがあります。もちろん、そのほかに、アナフィラキシーを起こす方もいらっしゃいます。

研修医 いろいろとあるんですね。ところで、AERDは1型アレルギー時反応とは異なるということは、IgEの検査や皮膚テストなどは診断の役に立たないということですね?

指導医 その通りです。診断への第一歩は、しっかりと病歴を聞くことです。患者さんの病歴が、AERDの症状や発症様式に合致するものであるかどうかが大切となってきます。

  確定的な診断を得ようとする場合は、アスピリン負荷試験を行うことになります。その方法の1例を見てみましょう(表2 Stevensonらの方法、文献2)これはある程度危険も伴う試験ですので、十分な経験のある施設で行うことが大切です。

表2 アスピリン負荷試験の一例
アスピリンの量
時刻 1日目 2日目 3日目
7:00 プラセボ 30mg 100〜150mg
10:00 プラセボ 45〜60mg 150〜325mg
13:00 プラセボ 60〜100mg 650mg

陽性はFEV1.0が20%の低下またはFEV1.0が15%以上低下かつ気道以外の症状が出現(鼻汁、鼻閉、顔面紅潮、皮疹、結膜充血、消化器症状など)の場合

研修医 それでは、AERDの患者さんが解熱鎮痛薬を必要とする場合は、どうしたらよいのでしょうか?

指導医 そうですね。COX-1阻害作用のある薬では症状が出てしまいますので、そういったものは避けなければなりません。

  一つの方法としては、COX-2を選択的に阻害する薬を使うという方法があります。ただ、それでも反応が起きてしまったという症例報告もあるので、慎重にしなければなりません。また、日本の添付文書上は禁忌となっているので、現実的には使いにくいです。

  そこで、安全に使えるかどうか負荷試験を行う方法があります。例としてセレコキシブの負荷試験の方法を見てみましょう(表3)。セレコキシブはCOX-2阻害薬なので、先ほどの表に出てきたような、慢性蕁麻疹が背景にあり、Cox-1阻害薬で蕁麻疹が出てくるような方でも、基本的には用いることが可能だといわれています。なお、メロキシカムも低用量であればCOX-2を有意に阻害しますが、量が増えてくるとCOX-1阻害作用が増えてきますので、避けた方がよいでしょう。

表3 セレコキシブ負荷試験の一例
時刻 投与量
8:00 10mg
10:00 30mg
12:00 100mg
14:00 200mg

FEV1.0が15%以上低下した場合は試験を中断。FEVは15分から30分おきに測定かつ症状が出現時に測定

研修医  なるほど。セレコキシブなどは使える可能性があるんですね。では、アセトアミノフェンをAERDの方に用いるのはどうなのでしょう?

指導医 アセトアミノフェンにもCOX-1阻害作用があります。ただ、結構な量を飲まないと症状が出るほどの十分なCOX-1阻害にはなりません。欧米のstudyですが、500mgのアセトアミノフェンでは症状は出なかったが、1000mgだと28%の人に軽い症状が出て、1500mgだとさらに6%に反応が出たという報告もあります。

研修医 では、毎日アスピリンを飲まないといけないような方はどうしたらよいのですか?

指導医 そういった方の場合は、アスピリンの減感作をすることになります。例を示しましょう(表4)。AERDの患者さんに対するアスピリンの減感作によって、副鼻腔感染、ステロイドの使用量、嗅覚障害の改善、鼻、副鼻腔、喘息の自覚症状の改善などがみられ、5年間のフォローアップでもその効果は有意に見られていたとの報告もあります。

  ただし、この方法は、アスピリンへの過敏症を根本的に取り去ってしまうというものではありません。いったんアスピリンを飲むのをやめてしまうと、再度飲んだ時には反応が出てしまいます。

表4 アスピリン減感作の一例
時刻 投与量
8:00 20.25mg
9:30 40.5mg
11:00 81mg
13:30 162.5mg
15:00 325mg

 FEV1.0を少なくとも90分ごと、あるいは症状出現時に測定。投薬は最大3時間ごとまで延長可。FEV1.0がベースラインより15%低下した場合治療を行う。その際、最後のアスピリン投薬から3時間以内に状態が落ち着いた場合は、最後の投薬と同量から再開。その量が耐えられれば、増量を再開。3時間以上した時点で、改善がない場合はその日は中断、翌日より症状が起きた同量から再開する。大抵は2日で完了する。

研修医 そうなんですね。

指導医 とにかく、その患者さんからもう一度しっかりと病歴を取る必要がありますね。

研修医 はい。そう言われるだろうと思って、先生の明日の外来の予約をとっておきました。

指導医 またですか(笑)。

研修医 よろしくお願いします!

【参考文献】
1)D. A. Khan, and R Solensky. Drug allergy. J Allergy Clin Immunol 2010;125:S126-37.
2)Middleton's allergy: principles and practice, 6th edn. Philadelphia: CV Mosby; 2003:1695-1710.
3)D. D. Stevenson, and A. Szczeklik. Clinical and pathologic perspectives on aspirin sensitivity and asthma J Allergy Clin Immunol 2006; 118:773-86.
4)M. P. Berges-Gimeno, R. A. Simon, and D. D. Stevenson. Long-term treatment with aspirin desensitization in asthmatic patients with aspirin-exacerbated respiratory disease J Allergy Clin Immunol 2003;111:180-6.
5)岡田正人:第7章 薬物アレルギー,レジデントのためのアレルギー疾患診察マニュアル, 医学書院:189-272,2006


田巻弘道、岸本暢将、岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科〔成人、小児〕)


2010.6.22 提供 日経メディカル別冊編集