2010 リウマチ学会演題集

2010.6.18

MTXで効果不十分な患者にタクロリムスの上乗せが有効な可能性

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの北浜真理子氏

 メトトレキサート(MTX)で十分な効果が得られない関節リウマチ患者に対し、タクロリムスの上乗せが有効である可能性が示された。6月16日から19日までローマで開催されている第11回欧州リウマチ学会(EULAR 2010)で、東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの北浜真理子氏が発表した。

  対象は、2005年から2009年までに同センターを受診した関節リウマチ患者で、同施設が実施している大規模前向き観察コホート研究「IORRA」の参加者とした。IORRAでは、医師の臨床評価と疾患活動性(DAS28)など各スコアによる評価のほか、半年ごとの聞き取り調査を行っている。

  本研究では、期間中1カ月以上にわたってMTXにタクロリムスを上乗せした157人を抽出。年齢や性別、他の治療法などの背景因子が一致し、MTXを使用しているがタクロリムスを上乗せしていない471人を対照群とした。

  1年間のDAS28の変化をみたところ、タクロリムス上乗せ群では4.58から3.71に低下していたが、MTXのみ群では3.91から3.61と低下はわずかだった。また、タクロリムス上乗せ群では126人が治療を継続できており、この126人でみると、DAS28は4.54から3.62へと低下していた。研究開始当初のDAS28値に両群で差があったため、ベースライン時のDAS28と年齢・性別による調整などを行ったところ、いずれもタクロリムス上乗せ群とMTXのみ群の間に有意差が得られた(p<0.05)。

  さらに、タクロリムス上乗せ群について、観察期間中の使用薬剤量の変化を調べたところ、タクロリムスは平均1.0mg/日から1.5mg/日、MTXは8.0mg/週のまま、プレドニゾロンは4.0mg/日から3.0mg/日となり、タクロリムスを上乗せすることでMTXやプレドニゾロンの使用量増加を抑えられた可能性が示唆された。

  北浜氏は、「タクロリムス投与では感染症のリスク増加が懸念されがちだが、血中濃度モニタリングを行うことで、用量依存性の有害事象はある程度回避できる。MTXで十分な効果が得られず、使用量も増やせないといった場合などに、タクロリムスの上乗せを選択肢の1つとして考慮してもよいのではないか」と話していた。

(日経メディカル別冊編集)



2010.6.21

疾患活動性が高いRA患者では手の骨塩量が減少する、予後予測因子としても有用か

 手の骨塩量が、関節リウマチ(RA)の疾患活動性(DAS28)と関連することが示唆された。6月16日から19日までローマで開催された第11回欧州リウマチ学会(EULAR 2010)で、オランダ・ライデン大学医療センターのL. Dirven氏が発表した。

  対象は、DAS28値2.4未満を目標に、積極的な抗リウマチ薬治療を行っている活動期の早期RA患者145人。ベースライン時のDAS値が2.4を超える群、同1.6〜2.4群、1.6未満群の3群に分け、1年後に再度、検査を行って骨塩量の変化を調べた。

  骨塩量の変化については、1年間に3mg/cm2以上の減少がみられた場合を悪化、3mg/cm2以上の増加がみられた場合を改善、変化量が3mg/cm2未満にとどまっている場合を安定と定義した。

  結果として、骨塩量が悪化した患者の割合は、DASが2.4を超える群で70%、DASが1.6〜2.4の間にある群で68%に上ったのに対し、DASが1.6未満の群では44%だった。また、骨塩量の改善がみられた患者の割合は、DASが2.4を超える群で6%、DASが1.6〜2.4の間にある群で11%にとどまったのに対し、DASが1.6未満の群では35%だった。

  DASが1.6未満の群で骨塩量が改善する可能性は、DASが2.4を超える群の7.5倍(95%信頼区間:1.2-34.2、p=0.013)、DASが1.6〜2.4の間にある群の4.3倍(95%信頼区間:0.98-18.5、p=0.054)だった。

  Dirven氏は今回の結果について、「骨塩量は全身性の炎症が生じることで減少が加速するのではないか。今後、RA患者の重要な予後予測因子になるかもしれない」と期待を示した。

(日経メディカル別冊編集)


2010.6.21

強直性脊椎炎に対するインフリキシマブ治療にMTXの併用は不要

フランス・トゥール大学のDenis J. Mulleman氏

 メトトレキサート(MTX)は、関節リウマチ(RA)治療の中心的薬剤(アンカードラッグ)として位置づけられており、インフリキシマブ(IFX)をRA治療に用いる際にもMTXが併用される。
しかし、IFXを強直性脊椎炎(AS)治療に用いる際のMTX併用の必要性については相反する報告が混在する。そこで、フランス・トゥール大学のDenis J. Mulleman氏らは、AS治療におけるIFXの薬物動態をMTX併用時・非併用時で比較する無作為化比較試験(RCT)を実施。
結果として、AS患者の血中IFX濃度がMTXにより増強されることはなく、薬物動態の面からはMTXを併用する必要性は認められなかったことを示した。研究結果は、6月16日から19日にローマで開催された第11回欧州リウマチ学会(EULAR 2010)で発表された。


  対象は、改訂New York診断基準に基づいて診断されたAS患者26例である。患者は無作為化のうえ、MTX併用群(n=14)と非併用群(n=12)に割り付けられ、両群とも通常のスケジュール(0、2、6、12、18週投与)にてIFX 5mg/kgが投与された。また、MTX併用群については、IFXに加えてMTX 10mgが毎週経口投与された。

  主要評価項目はIFXの血中薬物動態であり、毎回のIFX投与前および投与直後、投与2時間後の血液サンプルが採取され、VC(中央コンパートメントの分布容積)、VP(末梢コンパートメントの分布容積)、CL(クリアランス)の各パラメータが測定された。

  その結果、両群のVC(MTX併用群2.4L vs 非併用群2.3L)およびVP(1.9L vs 1.8L)に有意な差はなく、CLは両群ともに0.23L/日であった。すなわち、AS治療において、MTXはIFXの薬物動態に影響を及ぼさないことが示唆された。

   Mulleman氏はこの比較試験の結果から、ASにおいて、少なくともIFXの薬物動態の面からは、「MTXの併用を考える必要はない」と明言した。

(日経メディカル別冊編集)


2010.6.22

先進国の生物製剤利用率は5割に迫る一方で大きな国際格差も――QUEST-RA研究

フィンランド・Jyvaskyla中央病院のTuulikki Sokka氏

 近年の関節リウマチ(RA)治療では、早期に治療を開始し、寛解を目指す治療戦略が採用されつつある。その中で生物学的製剤の使用が急増しており、先進国(富裕国)では2005年に3割強だった使用率が2009年までに46%と5割に迫っていることが分かった。半面、貧困国では2005年に12%、2009年までに24%と急増しているものの、まだ大きな国際格差が存在しているという。RAの大規模疫学研究「QUEST-RA」の研究結果で、同研究を主導するフィンランド・Jyvaskyla中央病院のTuulikki Sokka氏が、6月16日から19日にローマで開催された欧州リウマチ学会(EULAR 2010)で報告した。

  QUEST-RA研究は欧州とした大規模疫学研究で、2005年に開始された。1国について3人以上のリウマチ専門医に依頼し、それぞれ連続100人のRA患者について、医師用3ページ、患者用4ページの詳細な調査票を作成する。2009年末までに、32カ国86施設の8039人のデータを集積した。断面調査のほか、フォローアップ調査も実施している。

  今回の報告では、4〜5年のフォローアップを実施できた18カ国の3394人のデータを解析した。18カ国の内訳は1人当たりGDPが2万4000ドル超の富裕国(先進国)と同1万1000ドル未満の貧困国である。

  結果は、2005年のベースラインにおいて、富裕国では33%のRA患者が生物学的製剤を使っていたのに対し、貧困国では12%だった。ベースライン時点で生物学的製剤を使っていなかったRA患者のうち、富裕国では20%、貧困国では14%が、フォローアップ期間中、新たに生物学的製剤の処方を受けた。ポワソン回帰分析によって推定した貧困国に対する富裕国のRA患者の使用開始率比(IRR)は、3.09(95%信頼区間:2.45-3.91)だった。調査終了時の全患者における生物学的製剤の使用率は、富裕国ではほぼ半数近い46%、貧困国では24%だった。

  Sokka氏は、「生物学的製剤の使用開始について、国の経済指標はDAS28値を上回る有意な予測因子だった。こうした格差の解消を目指すためには、AIDS治療薬と同様、生物学的製剤の開発途上国割り引きの実施など、国、患者団体、リウマチ専門医、製薬企業などの協調が必要」と指摘していた。

(日経メディカル別冊編集)