関節リウマチ 徐々に軟骨や骨が破壊される原因不明の病気。
◇症状抑える新薬、次々登場
「最初は風邪のせいかなと思いました」。福岡市の女性(66)は6年前の秋、両手指の第2関節に痛みを覚えた。その半月前から、のどが痛む風邪のような症状が続いていた。当初はその影響と考えたが、指の関節は次第に腫れ、その後、両足にも広がった。整形外科で血液検査をしたが異常は認められず、痛み止めを処方された。ところが、痛みと腫れは悪化するばかり。3カ月後、女性はリウマチを疑い、リウマチ科を受診。初期の関節リウマチと判明した。
女性は現在、インフリキシマブ(商品名レミケード)という薬の点滴を8週間に1回受け、進行を抑えている。発症後、比較的早く有効な薬を使ったことで、女性の骨は変形に至らずに済んだ。
◇早期治療が重要
関節リウマチは体を守る免疫の仕組みに異常が生じ、正常な細胞を異物とみなして攻撃してしまう自己免疫疾患の一つ。徐々に全身の軟骨や骨が破壊されていく進行性の病気で、関節が1本の骨のように変形して曲げることすらできなくなり、日常生活に大きな障害をきたす。
30〜50歳代で発症することが多く、国内に70万人以上の患者がいるとされる。男女比はおよそ1対4で女性が圧倒的に多い。
発症原因は不明だ。遺伝子や体質など先天的素因を持った人が、ウイルスや細菌感染、ストレス、妊娠・出産などの後天的影響を受けて発症するのではないかと考えられているが、まだ確かめられていない。
ただし、近年の研究で発症途中のメカニズムが明らかになった。リウマチを発症するとまず、関節を覆う滑膜(かつまく)に炎症が起こる。この時、サイトカインと呼ばれる物質が出て、炎症をさらに増幅させたり、滑膜を異常に分厚くしたりするのだ。
そこでサイトカインを標的にした新薬が次々と登場し、顕著な治療効果を上げている。日本では、03年に認可されたレミケードを皮切りに、現在6種類が承認を受けている。6種類はバイオ技術で生まれた「生物学的製剤」と総称される。
長澤浩平・日本リウマチ学会副理事長(早良病院リウマチ膠原病(こうげんびょう)センター長)によると、臨床上、症状が見られなくなる「寛解(かんかい)」に至る比率は30〜40%と、従来の代表的な抗リウマチ薬の2倍以上。発症初期なら寛解率は70〜80%になるという。長澤医師は「リウマチは不治の病から、寛解を目指せる病気になった」と指摘。起床時に体がこわばる発症初期での早期発見、早期治療の重要性を説く。
◇経済的負担重く
一方、生物学的製剤は健康保険が適用されるが、それでも1回の注射・点滴につき4万円前後かかり、患者に経済的負担という新たな問題をもたらした。
患者・家族で作る「日本リウマチ友の会」が09年に全国の会員約9000人に行った実態調査では、医療費の自己負担額が月平均1万〜2万9999円の患者が17%、3万円以上が16%と合計3割を超えた。10年前の調査時は、1万円以上の患者は1割に満たなかった。
増加の背景には、機能障害を起こす前に新薬を使い、寛解を目指す患者が増えていることがある。ただ、公的助成は障害認定を受けないと適用されない。症状悪化を抑えたいという思いは経済的な問題に阻まれ、調査でも「寛解する薬が目の前にあるのに高くて使えず悔しい」「障害が出てからの医療費助成では遅すぎる」といった声が複数寄せられた。
レミケードの点滴を受けている福岡市の女性も併用薬や検査代などを含め月々約4万円を負担する。年金生活で家計は苦しいが、点滴の頻度を減らしたら痛みが再発した経験もあり「簡単にはやめられない」と不安がる。
友の会は公的助成の拡充を厚生労働省に要望している。長谷川三枝子会長は「発症初期に生物学的製剤を選べる経済的環境を整えれば、機能障害や重度化を防ぐことができ、結果的に社会保障費の削減にもつながる」と財政支援を訴えている。【阿部周一】