古くから日本の食卓で親しまれてきた海藻。食生活の変化で食べる量は減っているが、近年、様々な研究で海藻の持つ力が明らかになってきた。海藻パワーを正しく理解し、効果的に食生活に取り入れる方法を探った。
千葉県船橋市の海藻専門店「玉藻屋」。ワカメ類やコンブ、フノリ、テングサ、マツモ、モズク、ヒジキなど250種類以上の商品が棚に並ぶ。店長の坂詰和仁さんは「海藻を食べる文化があるのは日本のほか限られた国だけ。ところが現在の食生活ではコンブやワカメなど数種類を食べるにすぎない。ほかにもおいしい海藻がたくさんあることを知ってほしい」と話す。
海藻の特徴としてよく知られているのは、食物繊維やミネラル分を豊富に含むこと。どちらも日本人に不足しがちな栄養素だ。一口に食物繊維といっても水に溶けやすい水溶性と、溶けにくい不溶性がある。大妻女子大学の池上幸江教授は「海藻に含まれる食物繊維の分別は難しいが、ワカメやコンブなど粘質が多いものは水溶性、ヒジキや寒天などは不溶性の食物繊維を多く含むと考えられる」と話す。
水溶性の食物繊維は象徴で消化されにくく「血液中のコレステロールの上昇を抑えたり、血糖値のコントロールに役立つ」(池上教授)。一方不溶性の食物繊維には腸の動きを活発にし、便の量を増やす働きがある。
加えて最近話題になっているのがフコイダンという成分。メカブコンブやモズクなどのネバネバ分に含まれる多糖類だ。胃や腸の粘膜に付着して内壁を覆い、潰瘍(かいよう)の治療に役立つほか、抗酸化作用や抗がん作用もあるとされる。
最近では、これまで店頭で見かけなかった海藻も着目されている。代表格がアカモク。カルシウムやカリウムをワカメより豊富に含むことは知られていたが、漁船のモーターなどによく絡まるので、“ジャマモク”といわれていた。ところが「骨粗しょう症予防や抗ウイルス作用など、様々な健康効果が期待できるという研究結果が出始め、価値が見直されている」(坂詰さん)。
海藻は様々な栄養素を豊富に含むものの、野菜や穀類に比べて食べる総量は少ない。そこで、色々なメニューに取り入れながら食べる工夫が必要だ。玉藻屋ではPTAや生協組合員などの見学者に対し、様々なメニューを提案している。ヒジキとホウレンソウのごまあえ、麦ご飯に粘りコンブを混ぜて炊いたり、メカブを混ぜた卵焼き、アカモクやフノリ入りコロッケといった具合だ。
伝統的な食文化として海藻を研究するノートルダム清心女子大学の今田節子教授は「昭和初期までは日本各地で50種類もの海藻を、特徴を生かしながら食べていた。それぞれの特徴を理解することが重要だ」と話す。種類によって含まれるミネラル分の量は異なる。コンブにはカリウムが多く、ヒジキはカルシウム、アオサはマグネシウム、アオノリは鉄分を多く含む。これらをまんべんなく食べることで豊富なミネラルを摂取できるだろう。
注意点もある。1つはヒジキには微量のヒ素が含まれていること。厚生労働省によると水に戻した状態で1日4.7グラム以下の量を食べるのであれば問題ないとされる。また「30分間水で戻して煮れば9割近く取り除くことができる」(東京薬科大学の貝瀬利一教授)。
もう1つがヨード。「日本人はヨードの摂取量がもともと多い。極度に多くの海藻を食べ続けるとヨードの過剰摂取につながる恐れがある」(池上教授)。大豆にはヨードの吸収を阻害する性質があるので、一緒に調理すると適度に摂取できる。特に妊娠期に食べ過ぎると、赤ちゃんの甲状腺機能低下につながる例がまれにあるという。コンブにも1日あたりの適正量(乾燥量で5グラム)があるので、それを守り、コンブだしの食品をとるのを控えるなど注意することが必要だ。
|