夏場の香港のレストランのメニューには、夏におすすめの料理が紹介されている。たとえば、冬瓜のスープ、苦瓜の炒め物、緑豆粥といったもの。どれも体を冷やす働きのある寒涼性の食品を使った料理である。ところが、日本の中国レストランには必ずある冷やし中華そばは香港では見当たらない。

なぜなのか、香港のシェフに質問したところ「中国では日本のように水がよくないので食中毒の心配があり、生野菜や水で洗った料理は作らないのだ」という答え。実は、日本のレストランで供される冷やし中華そばは、日本で創作された、夏場の麺の食べ方の一種らしい。第二次世界大戦後に東京・神田の揚子江菜館が創作したものだという説がある。(岡田哲 たべもの起源事典による)

ところでこの冷やし中華そば、偶然かどうかわからないが、食材の選択が中国伝統医学に基づいてなされている。中国では古来「寒には熱を、熱には寒を以って療する」という方法がとられている。

冷やし中華そばの場合、麺とよく用いられるきゅうり、トマト、もやしは、ともに体を冷やす働きのある寒涼性の食品である。そして焼豚、錦糸玉子などのたんぱく質食品は、寒でも熱でもない中間の平の性質を持つ。これに醤油(寒)、酢(温)、砂糖(平)、ごま油(涼)を混ぜ合わせた汁をかけ、からし(熱)少々を加えて食する。

ほとんどが体を冷やす働きのある食材が使用され、栄養のバランスがとれ、五味のバランスもとれている。冷やし中華そばは、まさに夏向きの美味な健康料理といえよう。
(新宿医院院長  新居 裕久)

2006.8.19 日本経済新聞