何となくだるい。そんな時・・・
「先人の知恵」に酔う

体が冷える、肩が凝る、ぐっすり眠れない――。どこが悪いというわけではないが、「なんとなく調子が良くない」。こんな不調を訴える女性を中心に人気が高まっているのが伝統的な薬酒。漢方の生薬をアルコールに漬け込んだ薬酒には、漢方薬の効能を手軽に得られるように工夫した先人の知恵が詰まっている。

「冬は足先が冷たくてなかなか寝付けず、夏の風呂上りでも寒さを感じるような典型的な冷え性だったのに、いつのまにか風呂上りにも温かさが続くようになって自分でも驚いた。不規則だった月経周期が整ってきたのも、薬酒のおかげかも」

年中体が冷え、体調が優れなかった村木洋子さん(38、仮名)は、知人に薦められて薬酒を飲みはじめた約2カ月後、こんな風に体調の変化を実感したという。

疲れやすい、冷えやすい、肌荒れが気になる、便秘がち、月経不順……。村木さんのような不調を抱えている女性は決して少なくない。

血流アップが実証

これは東洋医学で「未病」と呼ぶ状態。「未病は、まだ病気にはなっていないが、放っておくといずれ病気になるという、いわば疾患準備状態」と話すのは、血管代謝と病気の関係に詳しい鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の丸山征郎教授だ。

丸山教授によると、未病の根底には毛細血管の流れの滞りがある。体の隅々まで張り巡らされている毛細血管は、臓器や細胞に酸素や栄養、ホルモンなどを運搬し、老廃物を運び出す「体のライフライン」。これが滞ると、月経トラブルや冷え、肩こりなどの不調が生じる。

この毛細血管の滞りの改善に役立つのが、何種類もの生薬を焼酎やみりん、日本酒などに漬け込んだ薬酒だ。300−400年も前から飲まれてきたものに「保命酒」「養命酒」「忍冬酒」などがある。
薬酒の働きでまず注目したいのは、漢方薬の材料である生薬そのものの「血流アップパワー」。薬酒によく使われている生薬は体に対する作用で大きく2つに分けられる。

1つは体を温める「温中作用」。「中」とは漢方で胃腸など消火器を指す。桂皮(シナモン)や丁字(クローブ)などが代表で、食べたときに胃腸を温める作用を持ち、全身の血流を良くして冷えを取り除く。もう1つは、血管を広げたり、赤血球などのしなやかさ(変形能)を高めて血液成分そのものがサラサラ流れるようにする「活血作用」。芍薬(しゃくやく)や高麗人参が代表だ。

漬け込む酒自体にも、血管を広げ、血の巡りを良くして体を温める作用があるため、「生薬の有効成分が全身に届きやすくなる」(漢方に詳しい薬石花房幸福薬局の幸井俊高さん)。「成分が溶け出しやすくなり、香りによるリラックス効果も加わる」という。

就寝前がお薦め

まさに先人の知恵といえる薬酒だが、その健康効果が最近、科学的に実証された。
代表的な薬酒の1つである「養命酒」を冷え性の女性10人に4週間飲んでもらった試験で、冷えの体質の改善が確かめられたのだ。具体的には冷えの自覚症状などが軽くなったほか、冷水に足を漬け、その後の体温の戻り具合をサーモグラフィーでみる冷水負荷試験でも、体温回復が早くなった人が多かった。

「靴下2枚履いても足が冷たくて眠れなかったのに、飲んで2週間後には靴下要らずになった」「月経痛が軽くなり化粧の乗りもよくなった」など、冷え改善以外の変化に気づいた声もあったという。
薬酒の飲み方は、一般的に1回当たりおちょこ1杯程度(20ミリリットル)を1日2−3回。「特にお薦めは寝る前。睡眠中に体の中で活発になる代謝や解毒、ホルモン分泌などの働きを薬酒が応援してくれる」と丸山教授は語る。

ただし、薬酒のアルコール度数は12−25度程度ある。車の運転前に飲まないようにするのはもちろん、お酒に強くない人は様子を見ながら試すのがいいだろう。
(日経ヘルス編集部)

2007.6.30 日本経済新聞