食が細りがちな高齢者
趣味楽しみ生活に張り
食品の種類多めに

40代、50代だと太りすぎが生活習慣病を招き健康を害することになるが、高齢者になるとむしろ食が細くなり低栄養が大きな問題となる。最近の研究では栄養不足になると老化を早めることもわかってきた。専門家は「栄養不足に陥るリスクの高い人は早期に見つけ、余暇や趣味を通じて生活活動を高めることが栄養不足にならない秘訣」とアドバイスする。

「新しい食材や簡単な料理法を教えてもらえる。みんなで作って食べるのが楽しい」。2006年12月下旬、東京都老人総合研究所が板橋区と共同で開催した「お達者料理教室」に参加していた金崎てる子さん(83)はにこにこしながらこう話す。

同教室は年数回開催される。栄養状態を示すたんぱく質「アルブミン」の血中量が少なく低栄養傾向にあると診断した高齢者を対象に、管理栄養士がバランスの良い食事のメニューを教え、一緒に買い出しをし、料理作りを体験してもらう。同研究所の渡辺美紀研究員は「単調になりがちな食事のメニューを増やし、より簡単な調理法を身につけてもらうことで低栄養の改善につなげたい」と意気込む。

アルブミンは血液中を流れるたんぱく質の約60%を占める。血液1デシリットルあたり4グラム以下だと栄養状態に「黄信号」がともり改善に取り組んだほうがよいとされる。アルブミンの供給源は主に食物に含まれるたんぱく質。年をとると食事量が減り、肉や魚などの摂取量が落ちアルブミン値が下がることが多い。

全国老人クラブ連合会が実施した高齢者の食生活調査によると「肉類」をほとんど食べないと回答した人が17%、逆に毎日食べる人は12.1%だった。生活習慣病を気にして肉を控える傾向が強いようだが「高齢者になると粗食がむしろ健康に悪影響を及ぼしかねない」と指摘する専門家は多い。

アルブミンは栄養状態の「ものさし」であると同時に老化の「ものさし」であることもわかってきた。
人間総合科学大学の熊谷修教授らは1996−2000年に秋田県南外村(現在は大仙市)に住む65歳以上の高齢者1千人を対象に「肉と魚の比率を1対1にする」「油脂類の摂取を不足しないようにする」など栄養指導を試みたところ、アルブミン値が平均4.1グラムから約4.3グラムまで改善した。

栄養状態と老化の関係を調べてみると、栄養改善をせずにアルブミン値が0.2グラム低下した人は握力が約6キログラム落ちたが、アルブミン値が改善した人は握力の低下が約5キログラムに抑えられた。「栄養状態を上げるほど、老化の進行を遅らせることが可能なようだ」(熊谷教授)

ただ、十分な栄養を摂れば老化しないのかというとそう単純ではない。高齢者でアルブミン値が3グラム前半まで下がる低栄養状態になると、食事で栄養改善をすすめてもアルブミン値が上がりにくい。生活習慣の改善は一朝一夕にはいかない。

北海道の特別養護老人ホーム愛輪園(札幌市)では、食べやすいよう例えばサケの身をほぐしたら改めて魚の型に入れて盛り付け、魚であることをわかってもらうなどの工夫をしている。しかし実際、好き嫌いなどを理由に食べ残す人が多く、平均1日約1200キロカロリー程度食べるのがやっとだ。アルブミン値もほとんど上がらないという。

愛輪園の管理栄養士の加藤幾子さんは「食事はそれまでの生活習慣そのもの。心の問題も反映する。栄養面だけを考えた食事を出しても食欲が出ない人が多いため、低栄養状態は改善しにくいのではないか」と指摘する。

高齢者の栄養問題を考える場合、検査などで低栄養状態であることがわかってから、たんぱく質の多いものを食べるよう指導されることが多かった。熊谷教授は「低栄養になりやすい人は日常生活で事前に危険信号が現れる」という。問診票(表参照)などでチェックしリスクが高い場合は「積極的に趣味を楽しむなど心がけてほしい。低栄養予防につながる」とアドバイスする。
(西村絵)


老化を遅らせるための
食生活指針の主な項目

・3食のバランスをとり、欠食を避ける

・動物性たんばく質を十分にとる
・魚と肉の摂取は1対1程度
・油脂類の摂取が不足しないように
・肉はさまざまな種類を摂取して、偏らないように
・牛乳は毎日200ミリリットル以上飲むようにする
・緑黄色野菜、根菜類などを毎日食べる
・食欲がないときはおかずを先に、ごはんをあとに食べる

(出典)日本公衆衛生雑誌



2007.1.7 日本経済新聞