スパイスに健康4効果

料理に合うだけじゃない
代謝促進、血管老化も予防

 冷たい風にさらされると、体の芯から温めたくなる。そんな時に頼りになるのが各種スパイスだ。どんな料理にも合うという味覚上の特徴だけでなく、最近の研究でスパイス類には代謝を高め、冷えを予防するなど、主に4種類に分かれる健康効果があることが分かってきた。

 スパイスとは、料理のからみづけや食材の臭み消し、着色を目的とした食品のこと。コショウやサンショウ、トウガラシ、ナツメグなどおなじみの種類のほか、ショウガ、ニンニク、パセリなども仲間だ。カレー粉やチリパウダー、七味唐辛子、中国料理に使われる五香などは、数種類のスパイスをブレンドしたものである。
 
 スパイスコーディネーター協会(東京都葛飾区)の武政三男理事長は「江戸時代まで獣肉を食べる習慣が少なかった日本人は、世界的にみてスパイスの利用が苦手。1人あたりの消費量も欧米の10分の1ほど」と説明する。味ばかりではなく健康効果に注目して、もっとスパイス上手になってほしいという。

消化吸収助ける
 ではスパイスにはどうのような健康効果があるのか。予防医学の専門家で、伝統的食材の健康効果の解明に取り組んでいる日本大学医学部の平柳要准教授によれば、スパイスの主な効果は@食欲を高め消化吸収を助けるA代謝を促進し「冷え」を予防するB抗酸化物質を豊富に含み、血管の老化などを予防するC減塩、減カロリーを助ける――の4種類。
 
このうち寒い季節の効用で期待度が高いのは代謝力の向上だろう。これまでも欧米の研究で、朝食の料理に3グラムのスパイス(チリ・マスタードなど)を加えることで、起床後のエネルギー消費量が25%増えたという報告があるが、平柳准教授が2008年に明らかにしたのは日本の伝統的スパイスのひとつショウガの効果だ
 研究ではサンドイッチの調味料のショウガ20グラムに相当する抽出エキスを加えたものを食べた人と、エキスが加えられていないサンドイッチを食べた人を比較した。結果はエキスを加えたサンドイッチを食べた人のエネルギー消費量が食後3時間にわたって約10%高まった。

子どもにも有効
 多くのスパイスで代謝を高める効果が知られていて、上手に使えば冷え予防につながる。また最近ではニンニクやターメリックなど抗酸化物質を含むスパイスも知られていて「日ごろの生活に利用することで血管の健康やがん予防など、生活習慣病対策に役立つと期待されている」(平柳准教授)。

  一方、スパイスを、子どもや高齢者を含む幅広い世代の栄養管理に活用しようという動きもある。「日本ではスパイスは辛い嗜好(しこう)品とのイメージがあり、子どもや高齢者、病人は避けた方がいいと考えられてきた。しかし世界的には、子どもの偏食予防や胃腸機能などが衰えた高齢者の栄養管理にも役立つと考えられている」と武政理事長。
 例えば子どもがカレー好きなのは、不慣れな食材の香りをマスキングする効果があるためだ。また、高齢者がカレーを食べなくなる理由を調べたところ、辛さにあるのではなく、ルーに含まれる小麦粉と脂肪分が原因でお腹がはるからだった。「ルーを少なめにし、カレー粉を足したスープカレーのように工夫するとおいしく食べられる」と武政理事長は強調した。

高齢者の誤嚥予防
 食の機能の衰えた高齢者にスパイスを活用しようという医学研究もある。高齢者ではノドの機能が衰えるため、食べ物が食道ではなく気管に入ってしまうという誤嚥(ごえん)が起こる。高齢者の肺炎の原因のひとつだが、2006年に東北大学大学院老年病態学チームは、食事のときにコショウの香りをかいでもらうことで、のどの反射が改善し誤嚥を予防する効果が得られたと発表した。
 食欲向上から、予防医学まで幅広く健康効果が期待されるスパイス。これ以外にも各種の効果が期待できる。スパイスの医学的実力を理解し活用することが大切だろう。
(ライター  荒川 直樹)

3種以上混合秘けつ
 最近ではスーパーマーケットなどの店頭に多様なスパイスが並んでいるが、なかなか上手には使いこなせない。スパイスコーディネーター協会の武政三男理事長は理由について、スパイスを1品ずつ使うことが多いからだと説明する。「スパイスは単独では辛みや苦みなどが際立ちおいしさを感じない。3種類以上を混合することで欠点が打ち消されて使いやすくなる。 
 ビギナーにおすすめできるのは、カレー粉にも使われているクミン、コリアンダー、カルダモンなどが中心になる。さらに好みに応じてクローブやナツメグ、シナモン、レッドペッパー、ターメリックを加えたアレンジも口に合いやすい。
 「レッドペッパーを抑えれば、辛みのない香りだけのカレー粉になる。子どもの偏食防止や食欲がないときのひと味にも使える」(武政理事長)というわけだ。難しければ市販の混合香辛料、ガラムマサラのマイルドタイプで代用できるだろう。

スパイスの健康効果
○食欲を高め消化吸収を助ける
 スパイスの香りは、かぐだけでも食欲が高まる。とくにクミン、コリアンダーには胃腸の働きを活発にする働きがある。食欲のないときには、スープなどに3種類以上を混合したブレンドスパイスを加えると効果的。
○代謝を高め「冷え」を予防する
 交感神経機能を高め、エネルギー消費量、熱生産量を上昇させる。トウガラシやショウガ、コショウなどが効果的。トウガラシは辛さの刺激が持続するので、苦手な人はショウガ汁やコショウなど、辛さが後をひかないスパイスを利用するといい。
○血管などの老化を予防する
 ニンニクやパセリ、ショウガなどの香草類は、体内で発生し血管の老化や生活習慣病の要因となる活性酸素を制御する抗酸化物質を豊富に含む。
○減塩、減カロリーを助ける
 スパイスで香りを強調することで、調理に加える塩分を控えめにできる。菓子づくりで満足のいく風味を出すには大量の砂糖が必要だが、フェンネル、バニラ、シナモンなどを加えれば甘さ控えめでもおいしく仕上がる。
(注)平柳要准教授 武政三男氏の話を元に構成

2008.12.20 記事提供:日経新聞