コラーゲンは肌に効くの。
◆コラーゲンは肌に効くの。
◇効果示すデータ不十分 肌の水分量、マウスの骨密度増加の報告も
「飲むだけで肌がきれいになる」などの宣伝文句で、コンビニエンスストアや通信販売でも売られている「飲むコラーゲン」や「食べるコラーゲン」。今、コラーゲンがブームといわれているが、科学的に見て、効果はどこまで期待できるのか。
コラーゲンは皮膚や軟骨などの組織を構成するたんぱく質の一種。そのたんぱく質の原料であるアミノ酸が複雑に絡み合った構造物だ。細胞と細胞をつなぐ接着剤のような役割を果たしているが、年とともに減り、みずみずしい肌は衰え、弾力性が乏しくなる。
では、コラーゲンを取れば、皮膚のコラーゲンに再合成され、肌はきれいになるのだろうか。「コラーゲンの話」(中央公論新社)の著者でコラーゲンの働きに詳しい大崎茂芳・奈良県立医科大教授は「コラーゲンを取っても、そのコラーゲンが体内でコラーゲンの材料になることはない」と話す。コラーゲンはグリシンやプロリンなどのアミノ酸から細胞内で合成されるが、コラーゲンそのものを取っても、そうしたアミノ酸にはならないという。これは皮膚科の医師など科学者の間で一般的に受け入れられている。
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ならば全く効果がないかといえば、そうでもなさそうだ。
コラーゲンが形を変えたゼラチンを、酵素などで分解して小さなコラーゲンペプチド(ペプチドは複数のアミノ酸がつながったもの)をつくる。これを人や動物に与えた実験で、「皮膚の水分が増えた」「骨密度が上がった」などの報告があるからだ。
明治製菓食料健康総合研究所が今年3月、日本食品科学工学会誌に報告した試験結果はそのひとつだ。魚のうろこから抽出したコラーゲンペプチドを約190人(25〜45歳)の女性に4週間食べてもらった。1日に食べる量を2・5、5、10グラムの3グループに分け、偽コラーゲン(でんぷんのデキストリン)の摂取グループと比較した。
その結果、コラーゲンの摂取グループは摂取しないグループに比べ、肌の水分量が増え、特に30歳以上で5グラム以上を摂取したグループで増えた。弾力性では差はなかった。
この結果をどう見るか。
コラーゲンの機能を研究する佐藤健司・京都府立大学大学院教授(食品科学)は「従来とは異なるメカニズムで皮膚や骨の細胞に作用している可能性がある」と話す。
佐藤さんは、人がコラーゲンペプチドを摂取すると、血液中にごく小さなコラーゲンペプチドが検出されるのを確認した。さらに、コラーゲンペプチドが、コラーゲンをつくる線維芽(せんいが)細胞を増やす作用を示すことを試験管内実験で確かめた。佐藤さんは「体内に入ったペプチドが細胞を増やすシグナルのような作用をしているのでは」と見ている。
マウスにコラーゲンペプチドを与えた実験で骨密度が増加することを確かめた真野博・城西大学薬学部准教授(食品機能学)は「摂取されたコラーゲンペプチドは、骨の代謝促進など細胞の働きを調節する伝達因子として働くのでは」と考えている。ただし、現段階で「人で美容効果があるといえるだけの確実な科学的データはない」と話す。
日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合(東京)が先月、東京都内で開催したシンポジウムでコラーゲンの研究で知られる藤本大三郎・東京農工大名誉教授は「人での効果を証明する科学的な証拠はまだ不十分」と話し、人を対象にした複数の試験結果が出るまでは確かなことは言えないと指摘した。
コラーゲンを多く含む肉類や魚をほとんど取らない菜食主義者でも、皮膚や骨などにはコラーゲンがあるなど、コラーゲンには未解明の要素が多い。コラーゲンが減ったから補給すればよいという単純なものではないことだけは知っておきたい。【小島正美】
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◇コラーゲン
皮膚や血管、骨、軟骨、腱(けん)などの組織を構成するたんぱく質。体内にあるたんぱく質の約3割を占める。そのうち約4割は皮膚、約2割は骨や軟骨にある。豚や鶏の軟骨や魚の皮などに多く含まれる。ゼリーに含まれるゼラチンは1-2%のごく少量で、たくさん食べても効果は期待できない。