減らせば発病リスク



「1日1個のりんごで医者知らず」ということわざ通り、果物が健康に良いというデータは事欠かない。野菜をよく食べる人は様々な病気が少ないという疫学研究の結果もたくさんある。理論的裏づけも多い。新鮮な果物や野菜は、常識の範囲だと、食べれば食べるほど良いし、減らす健康上の理由はない。

ただ、ある成分だけを取り出し、サプリメントとして病気を予防しようとする試みの多くは失敗に終わっている。果物や野菜を総合的にとっている人が、病気になる確率が低いということしか、今は言えない。

われわれも、日本の地域住民10万人を約10年以上追跡調査したデータを用いて分析している。胃がん、肺がん、大腸がんについて、果物と野菜の摂取量ごとのリスクの比較を試みた。

胃がんについては、男女ともほとんど食べないグループに比べ、1週間に1日以上食べるグループの方が、果物と野菜の種類別(緑色、黄色、その他)に22−49%ほどリスクが抑えられた。各種類の果物と野菜をおのおの週1日食べれば、予防効果があるということだ。老化と共に発生率が高くなるタイプの胃がんに限ると、食べれば食べるほどリスクが下がった。

肺がんと大腸がんについては、男女ともに果物も野菜も摂取量によるリスクの差はなかった。肺がんはたばことの関連が強いために効果が打ち消されたのかもしれない。

大腸がんは、意外に思われるかもしれないが、最近の大規模な疫学研究報告でも「関連なし」とするものが多い。大腸がんという特定の部位のがんに対しては、果物や野菜の摂取不足は、重要な要因にはならないということだ。

こうした情報は、発がんメカニズムを解明する研究にとって意味がある。しかし、野菜と果物は健康に良いというゆるぎない原則があるので、病気の予防という観点からはあまり重要ではない。大腸がん予防に向かないからといって食べるのを減らしたら、胃がんや循環器疾患のリスクが高くなってしまうからだ。

(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)

2005.7.24 日経新聞