今できるアンチエイジング医学
〜サプリメント、チオプロニンから、運動、食事、ごきげんまで〜


慶應義塾大学医学部眼科学教授 「アンチ・エイジング医学」編集委員長
坪田 一男

必要なサプリメントとは

サプリメントについてはまだまだ賛否両論ある。僕は相変わらず毎日69錠相当を摂っているが(クライシンクリームなども1回1錠と計算して)(資料1)、全くサプリメントを摂らずに元気な方も多い。今月号にご登場願ったセンテナリアンの安藤久蔵さんは、100歳になるまで一度もサプリメントを摂っていないという。ということは、サプリメントはアンチエイジングの必要条件ではない。全く摂らなくても健康長寿を達成できる人がいるのは確かだ。大規模疫学調査によっても、サプリメントの健康者への有益性は証明されていない。それどころか、有名な2007年のJAMAの論文では、ビタミンA、E、βカロテンは死亡率を上げるというメタアナリシスを発表している。では、サプリメントは本当に必要ないのだろうか。
僕自身は当然“サプリメントは必要だ”という考え方をしている。ホルミシス理論によれば、健康によいものでもやりすぎれば健康に悪く(健康に必要な食事も食べすぎれば体によくないなど)、逆に健康に一見悪そうでも適度な量であればプラスに働く(活性酸素を作り出す運動も適度な量は健康にプラスに働くなど)。サプリメントも同じであると考えている。それぞれに最適量があり、それを超えればマイナスに働く。どの程度の量を摂取すれば最適なのかということが大きな問題だ。運動を例にとってみると、運動を全くやっていなかった人が突然10q走ったらマイナスに働くだろう。でも、毎日5q走っている人にとっては10q走ることは適度な刺激になる。逆に、いつも走っている人が突然運動をやめたら、それは大きなマイナスになる。学生時代運動して健康そのものだったのに、社会人になった途端に運動習慣が崩れてメタボリックシンドロームになる人がいるのはその典型だ。
眼科領域では、ビタミンA、C、Eを中心に亜鉛と少量の銅を組み合わせたサプリメントが黄班変性の進行を抑制するという基礎研究と大規模疫学研究のデータによって、サプリメントが広く使われるようになってきている。2010年のN Engl J Medに発表された「ビタミンEが非アルコール性脂肪肝を予防する」という研究は、ビタミンEの見直しのきっかけになった。やはり、ある状況においてある量のサプリメントはプラスに働くことは間違いない!とその考えを強めた次第である。
実は、2007年にJAMAにネガティブデータが出てから1年間、サプリメントを極力減らしてみた時期があった。この間、血糖値は上がり、体調は潤滑油が切れたような感じで、個人的な体験としてはやはりサプリメントは必要だと感じたのだ。僕が摂っているサプリメントが本当に最適かどうかは不明だが、少なくとも血糖値と体調という2つのパラメーターからみる限りは必要だと考えている。

不必要なものを排出する―水銀への対応

ビタミンA、C、Eのように、体に必要なものを摂取するということに加えて、不必要なものを体外に排出するということも大切だ。代表選手が水銀である。特に日本人の場合は、魚の摂取量が多く、平均して水銀値が高い。男性で2.5ppm、女性で1.8ppmといわれるが(国立水俣病センターによる)、米国人の平均は0.1ppm以下であり、いかに大きな差があるかがわかる。魚はω3などの必須脂肪酸を多く含有して健康にプラスに働くので、水銀問題さえ解決できれば、魚のプラスの効果はさらに大きくなる可能性がある。2002年の有名なN Engl J Medの論文でもこの点は大きく指摘されており、時折社会の関心事になる。将来、水銀を含まない魚の開発ができればこの点は心配なくなるが、当面は自分でこの問題を解決するしかない。
2010年の当連載にも少し書いたが、僕の場合は水銀濃度が15ppmとかなり高いことがわかって、長らくの問題だった。水銀は高濃度被爆の場合は水俣病が有名だが、低濃度被爆でも免疫能の低下、認知機能の低下、動脈硬化などのリスクファクターになることが知られている。SODやグルタチオンなど活性酸素除去に重要な酵素の活性中心には亜鉛やセレニウムがあり、体内の300以上の酵素に使われているが、水銀はこれらの必須微量ミネラルと競合して機能を落とすといわれている。
自分の専門領域のドライアイにおいても、SOD1ノックアウトマウスでは、涙腺中の活性酸素が増加してドライアイを引き起こすことがわかった。もしかしたら水銀がドライアイに影響しているのではないかと仮説を立てて、現在熊本にある国立水俣病研究センターとの共同研究を始めたところだ。
これまでに水銀キレーション剤であるDMSAやDMPSなど使ってみたが、体内の亜鉛や銅も排出してしまうため、自分のような高値の水銀を下げるのは大変で、電解質バランスが崩れて中止した覚えがある。もちろん摂取量を減らすという意味で、食物連鎖の最後にある大型回遊魚(マグロなど。僕はもともとお肉を食べないがクジラは最も水銀濃度が高い)は極力食べないようにしている。最近やっとお寿司屋さんでマグロやトロを食べなくてもごきげんに過ごせるようになってきた。
強力な味方はチオプロニンである。日本では肝機能改善、シスチン尿治療として保険適応になっているチオラ(R)(マイラン製薬株式会社)として販売されており、水銀排出としての保険適応もある。チオラ(R)は眼科領域で白内障予防、治療薬として40年間にわたって使われてきた薬で、副作用も少なく薬価も安い(表1)。
僕もチオプロニンを2009年から使いはじめて、かなり水銀値が低下してきた(図1)。もしかしたら、自分のドライアイが改善したのは水銀濃度と関係あるかもしれない、との仮説の検証をしていることは先に書いたとおりである。
自分は魚をたくさん食べていると思ったら、一度毛髪検査をしてみることをお勧めする。毛髪を10g取って、ら・べるびぃ株式会社に送付すると解析してくれる。費用は1万円程かかるが、健康には投資が必要だ。水銀値が5ppm以上あったら、キレーションやチオラ(R)摂取を行うのはよい考えだ。現在、南青山アイクリニックや三番町ごきげんクリニックなどアンチエイジング医学を行っているクリニックでは、積極的に水銀検査を勧めている。自分の健康にも有益であるし、自身のクリニックでも導入できる。

表1.チオプロニンの実際の使い方
白内障予防として眼科医が使う場合(保険適応)
1日3錠(1錠が100mgなので300mg)

肝機能改善として内科医が使う場合(保険適応)
1日6錠(1錠が100mgなので600mg)

水銀排出として使う場合(毛髪水銀が極度に高い場合は保険適応)
1日2錠(1錠が100mgなので200mg)

図1 僕の毛髪水銀濃度の変化
チオプロニンのおかげでだいぶ下がってきた。
あともう少しで日本人男性の平均値だ!

図1 僕の毛髪水銀濃度の変化

運動、食事、そしてごきげんに生きる

1に運動、2に食事、3、4がなくて5にごきげん!と最近は叫んでいる。運動を日常的にすること、栄養バランスを考えてカロリーを抑えめにすることはアンチエイジングの基本であることは、みんな同意していることだろう。運動をしていない人には少しでも運動習慣をつけるようにすること、運動をすでに始めている人にはもう少し負荷のかかった運動をすること、かなりたくさん運動をしている人にはその運動習慣を続けるようにしていくことが大事である。
糖尿病の傾向のある僕は、カロリー控えめに加えて、低GI値の食事を摂取することに注意を向けている。抗酸化物質をたくさん含んだ野菜摂取も積極的に行う。
ごきげんに生きることには、まだまだエビデンスの少ない領域だが、前回の編集長のページにも書いたように現在では“Happy People live longer”という考えも出てきている。十分な睡眠をとり、細かいことにくよくよせず、前向きでごきげんな生活を送るように心がけているし、周囲にも伝えている。とりあえず、よく寝ることはごきげんな人生に最も大切なことだ!これはすぐに実行に移せることなので、是非すぐにやろう。

資料1 筆者が現在摂取中のサプリメントー覧

  一般名 主な成分 1粒量 1日量 粒数 主な機能 合計
粒数


23種類のビタミン・ミネラル 23種類のビタミン・ミネラル - - 1粒 1粒 基礎的なビタミン・ミネラルの補給 2粒
ビルベリー, ルテインなどの眼科用サプリ ルテイン,ビタミンC,E,
亜鉛, βカロテンなど15種類
- - 1粒 1粒 目の加齢性疾患の予防,脳機能の維持 2粒
還元型コエンザイムQ10 CoQ10 100mg 100mg 1粒 0粒 抗酸化 1粒
ALA/ALC α―リポ酸.カルニチン 225mg
525mg
225mg
525mg
1粒 0粒 抗酸化 1粒
SUPER CURCMIN クルクミン 400mg 400mg 1粒 0粒 抗酸化 1粒
アスタキサンチン アスタキサンチン 6mg 12mg 1粒 1粒 抗酸化 2粒
ビタミンC ビタミンC 500mg 2000mg 2粒 2粒 抗酸化,免疫強化,抗炎症,抗ウイルス 分包で摂取 4粒
ビタミンC ビタミンC 500mg 2000mg 4粒適宜 ″ 別に適宜 4粒
ギンコ(イチョウ葉エキス) ギンコ(イチョウ葉エキス) 60mg 60mg 0粒 1粒 血流,脳の認知機能の維持 1粒
N-アセチルシステイン(日本では医薬品成分) N-アセチルシステイン 1000mg 2000mg 1粒 1粒 抗酸化(特に肌) 2粒
EPA&DHA EPA, DHA 76mg
36mg
304mg
144mg
2粒 2粒 血流中の脂質濃度を下げる.炎症抑制 4粒
ラクトフェリン ラクトフェリン 100mg 200mg 1粒 1粒 免疫強化,炎症抑制 分包で摂取 2粒
ラクトフェリン ラクトフェリン 250mg 500mg 1粒 1粒 ″ 別に大粒の米国製品を適宜 2粒
カルニチン カルニチン 400mg 400mg 1粒 0粒 脂質のエネルギー変換のサポート, ミトコンドリアからの酸化ストレスの抑制 1粒
L-カルノシン
(日本では医薬品成分)
L-カルノシン 500mg 500mg 1粒 0粒 フリーラジカルスカベンジャー,金属キレート剤,肌のシワ予防 1粒
チオラ錠 チオプロニン 100mg 100mg 0粒 1粒 水銀排泄増加, 白内障の予防 1粒

尿

ビタミンB群 ビタミンB群 - - 1粒 0粒 代謝を助ける 1粒
メチルガード B6.葉酸,B12.ベタイン - - 1粒 0粒 ホモシステイン上昇抑制 1粒
マグネシウム マグネシウム 50mg 50mg 1粒 0粒 正常な心臓と筋肉の機能・神経機能・
脂肪代謝.不整脈・高血圧の予防
1粒
クロム クロム 200μ g 200μ g 0粒 1粒 糖代謝改善 1粒
レスベラトロール レスベラトロール 76mg 152mg 1粒 1粒 サーチュインの活性化 2粒
ビタミンB12舌下 ビタミンB12 - - 1滴 代謝の維持 2滴
難消化性デキストリン 食物繊維 5mg 10mg 1包 1包 糖の吸収を抑える 2包
ミグリトール ミグリトール 50mg   不定期   糖吸収の抑制  


プロスタセラ ノコギリヤシ 356mg 712mg 1粒 1粒 前立腺肥大予防 2粒
18mg 36mg 1粒 0粒 鉄欠乏性貧血の予防,改善 1粒
DHEA DHEA 25mg 25mg 0粒 1粒 男性(女性)ホルモンの材料 1粒
ビタミンD ビタミンD 1000IU 2000IU 1粒 1粒 カルシウムの吸収促進 2粒
亜鉛 亜鉛 15mg 30mg 1粒 1粒   2粒
フォスファチジルコリン フォスファチジルコリン 420mg 840mg 1粒 1粒   2粒
L-アルギニン L-アルギニン 500mg 1000mg 1粒 1粒   2粒
L-タウリン タウリン 1000mg 2000mg 1粒 1粒   2粒
フィナステリド フィナステリド 1mg 1mg 1粒 0粒 男性型脱毛症薬 1粒
THERALAC セラバイオティクス - - 1粒 1粒 プロバイオティクス 2粒
Thera Slim   - - 食中2粒   6粒
メラトニン(就寝前)
(日本では医薬品成分)
メラトニン 3mg 3mg 0粒 1粒 睡眠維持 1粒
テストステロンクリーム テストステロン - - 1回   男子ホルモン補充 1回
ミノキシジール ミノキシジール - - 1cc 1cc 頭髪部位の血管拡張 2cc
Chrysin フラボノイド - - 1回   フリーテストステロンの増加 1回
総合計 (2滴2cc 2包2塗は8粒と換算) 69粒

やりすぎという意見も多いのであくまで個人的な一例と考えてほしい。誰にでも勧めるわけではない。


2012年1月13日