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1.LIFESTYLE「人工光合成」
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植物は太陽光を使って水と二酸化炭素から酸素とブドウ糖を作ります。この光合成の仕組みを利用して、太陽光をエネルギー源に水素や化学原料を製造する研究が進んでいます。光触媒などを使って水を分解し、温暖化ガスの二酸化炭素を化学原料に変えて貯蔵し、自動車燃料や医薬品原料に使います。化石燃料に依存しない社会では、不可欠な技術として注目されています。
太陽光を利用して水素や化学原料を製造する方法は「ソーラー・フューエル」と呼ばれています。砂漠などで太陽光発電を行っても、電気は遠くへ送るほど減衰してしまいますが、ガスや液体に変えて運ぶと必要な時にエネルギーや原料として使うことができます。
植物の光合成は、細胞1個に100個近くある葉緑体内の「チコライド」という円盤状の組織に集まる巨大なタンパク質の複合体が拠点になっています。水の分解やブドウ糖合成に必要な原料の作成を経て、カルビン回路と呼ばれる部分でブドウ糖へと合成されます。まさにナノテクノロジーによる精密工場とも言えます。
水素製造では光触媒に光を当てて水を分解しますので、光合成の前半部分の「明反応」に相当します。光触媒は通常発生しない化学反応を光により促進する物質で、代表的なのが酸化チタンです。紫外線を当てて水を酸素と水素に分解する作用を日本が初めて発見しました。光触媒は当初、紫外線を当てないと働きませんでしたが、2000年以降可視光に反応するタイプが相次いで登場したことで弾みがついています。
化学原料の合成は光合成の「暗反応」に当たります。植物はブドウ糖を作っていますが、この反応を人工的に作るのは非常に難しく、金属錯体という特殊な化合物に光を当てて二酸化炭素を一酸化炭素やメタン、ギ酸などに変える方法が研究されています。
トヨタ自動車グループの研究所では、明反応と暗反応を組み合わせた人工光合成再現実験で反応を促す有機物や、電気を加えずに可視光に反応する光触媒と半導体表面に金属錯体を重ねた新しい光触媒を反応容器に収めて、水と二酸化炭素と太陽光だけでギ酸の合成に成功しました。
地球が二酸化炭素に覆われていた約27億年前、光合成をするシアノバクテリアが出現して酸素を作り、生命進化のきっかけとなりました。二酸化炭素を食料や燃料資源に変換する反応ですから、日本だけでなく米国、中国、韓国も研究に力を入れていて、地球温暖化対策の抜本的な解決策になるのではないかと期待が寄せられています。