飲める人も1日1合

飲酒と健康との関連については話題が尽きない。医学的にみても、Uカーブ、Jカーブ論争があり、フランス人は動物性脂肪を多く取るにもかかわらず心臓病が少ない「フレンチ・パラドクス」など新たな話題を呼びながら、30年以上続いている。

UやJというのは、横軸に飲酒量、縦軸に死亡率をとった場合のグラフの曲がり具合を指す。「少量飲むグループは、まったく飲まないグループよりもリスクが低いのか」「適量飲酒の範囲内ではリスクがさらに下がるのか」というのが論争のポイントだ。

われわれは、地域住民約10万人を約10年追跡調査したデータから、飲酒量別に死亡率などを比較した。

飲酒量は種類を問わずエタノール換算し合算した。日本酒1合と記すが、これは焼酎だと0.6合、泡盛0.5合、ビール大瓶1本、ワインはグラス2杯、ウイスキーはダブル1杯に相当する。

まず、平均寿命前の死亡リスクをみると、Jカーブだった。時々飲むグループを基準にすると飲まないグループは52%高い。1日1合以上からリスクが上昇、3合以上で統計的有意にリスクが67%高かった。ただし、飲まないグループには、体調を崩してやめた人たちも含まれ、飲めない体質や病弱で飲まない人たちも含まれている。飲まないグループが、飲めば良いか否かはわからない。

脳卒中リスクについては、時々飲むグループに比べ1日3合以上で1.6倍に上がった。その中で脳梗塞(こうそく)については、1日1合未満のグループに限るとむしろ40%抑えられた。出血性脳卒中については、1日3合以上で2.5倍になった。欧米に多い心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患リスクは、ある程度までの飲酒で下がると考えられている。

平均寿命の死亡リスクを総合的な指標と考えると、健康のためには飲める人でも1日1合までだろう。飲めない人は無理に飲むことはない。飲みすぎた日があれば飲まない日をつくり、1週間に計7合を目安に配分を工夫すると良いかもしれない。

(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)
2005.8.7 日経新聞