ビタミンD欠乏症が増加
背景に母乳栄養や日光不足
放射線への懸念も影響




ビタミンD欠乏症が増加
背景に母乳栄養や日光不足 放射線への懸念も影響

ビタミンDの欠乏による乳幼児の低カルシウム血症やくる病が増えている。「くる病なんて貧しく栄養状態が悪かった時代の病気」と考えられていたのに、なぜなのか。背景には母乳栄養の推奨や日光浴の不足、食事の偏りがあるという。日本では東日本大震災以降、原発事故による放射線への懸念から屋外活動を避ける傾向もある。日光浴不足に拍車が掛かり、患者がさらに増えることを専門家は心配している。

▽カルシウム低下

「以前はビタミンD欠乏症の患者さんを診ることはほとんどありませんでした。ところが2000年ごろから増え始め、最近は毎年数人が受診します。他施設からの相談も年間10例ほどあります」と東大病院小児科の北中幸子(きたなか・さちこ)准教授は話す。

全国的な調査データはないが、増加傾向は東大病院に限った話ではないようだ。大阪大病院小児科の大薗恵一(おおぞの・けいいち)教授も「くる病とはっきり診断できる患者さんは年間5〜6人。それ以外にも、体内のビタミンD量の指標となる血液中の『25水酸化ビタミンD』の数値が低い患者さんがかなりいます」と解説する。

海外でも2000年代に入り、学術誌に掲載される欠乏症の論文数が右肩上がり。世界的な患者の増加がうかがえる。

ビタミンDは、食事で摂取したカルシウムが小腸で吸収されるのを促進する。さらに、いったん腎臓を通過したカルシウムの再吸収も促す。このため、ビタミンDの欠乏は血液中のカルシウム濃度の低下を招く。

▽皮膚で合成

1歳未満の乳児では、全身性のけいれんや、頭蓋骨の軟化などの症状が現れる「ビタミンD欠乏性低カルシウム血症」の発症につながる。一方、歩行が始まる1歳すぎの幼児では、O脚や低身長などが特徴の「ビタミンD欠乏性くる病」を発症することが多い。

患者増加の背景として三つの要因が指摘されている。

@は母乳栄養の過度の推奨。免疫機能を高めたり、母子の絆を強めたり、母乳には優れた点が多い半面、ビタミンDの含有量が人工のミルクに比べ格段に少ないという短所もある。「欠乏症を発症する子どもの大半は母乳栄養児です」と北中さんは指摘する。

Aは日光浴不足。ビタミンDは食事からの摂取以外に、日光を浴びることにより皮膚で合成される。しかし最近は、皮膚がんやしみ、しわの予防を理由に紫外線対策が勧められ、赤ちゃん用の日焼け止めクリームまで販売されている。

緯度によっても異なるが、関東などでは夏は1日10〜15分、冬は1時間程度を目安に日光浴を行うことが望ましい。

▽予防は可能

Bは食事制限や偏食。特に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎で、卵や魚を制限している子どもは注意が必要だ。

北中さんは2年前、都内の病院からこんな患者の相談を受けた。歩行異常を訴えて受診した2歳女児。O脚と低身長の症状があり、くる病と診断された。女児は完全母乳栄養で、11年の震災後、放射線を心配して魚やキノコの摂取を制限し、外出も控えていたという。

「福島の病院からも類似の相談がありました。極端な制限にならないよう注意が必要です」と北中さんは話す。

この病気は適度な日光浴や食事、人工ミルクからの積極的なビタミンD摂取を心掛ければ予防できる。そのためには妊婦や赤ちゃんの親を啓発しなければならない。

また、日本には現在、欧米で予防のために使われている乳児用天然ビタミンD製剤がない。さらに診断に不可欠な血液中の「25水酸化ビタミンD」測定に保険が適用されない。今後の大きな課題だ。

(共同=赤坂達也)

引用:共同通信社 2014年5月8日(木)

2014年5月28日更新