寒さを感じるようになると日本人は、ふぐが食べたくなるが、中国人は上海蟹(かに)が恋しくなる。ともに素晴らしく美味だからである。ただしニセ物も多いので注意。

さて上海蟹は近年日本の多くのレストランでも食べられるようになった。この蟹は淡水産のもずく蟹の一種で、上海から蘇州に向かう途中にある陽澄湖でとれたものがもっとも美味だとされている。

10月にとれた雌、11月にとれた雄が最高。この月になると雌は蟹黄(卵巣)、雄は蟹膏(精巣)が豊かになり、その味はなんとも形容のしがたい素晴らしい味になる。だからこの時期の上海蟹のとりこになってしまうのだ。雌、雄の見分け方だが、雌は腹部の殻の合わせめの形が丸く、雄はとがっている。

食べ方は蒸して食べるのが一般的で、そのさい注意しなければならないことは、皮をむくとでてくる内臓部分の胃、腸、肺、心臓部分は食べると胃痛を起こしたりするので、捨てること。それと酢としょうがを必ず一緒にとることである。蟹は体験的に体を冷やす働きが強いので食べ過ぎると、胃を冷やし胃痛を起こすことがある。これを防ぐために体を温める働きのある酢やしょうがを取るのである。

しょうがに含まれている辛味成分は、副腎髄質からのアドレナリンの分泌を亢進し、体熱の産生を促す。また酢は体を温める以外に殺菌作用があるので食中毒の予防をする。

つまり中国人は蟹を食べるときには、医食同源にもとづき陰陽(寒熱)のバランスを考えておいしく健康的に食べようとしているのだ。
(新宿医院院長  新居 裕久)


2005.11.12 日経新聞