日本人対象の研究必要


脂肪とコレステロールの多い欧米型食事は生活習慣病の元凶で、逆に、魚介と野菜中心の日本食は健康的というイメージがある。

日本でも肉と脂質の摂取量は、戦後、急増した。歩調を合わせるように結腸、乳房、前立腺がんが増えている。原因は動物性脂肪ではないかと、長い間考えられていた。しかし、その関連を示す科学的根拠は十分ではない。

例えば、乳がんの疫学研究では、「脂肪の摂取量が多い女性で乳がんが多い」「脂肪の摂取量を減らした女性で乳がんが減った」という結果よりは、「関連がない」ことを示す結果が多い。

日本人は欧米に比べて脳卒中の発生率が高いが、戦後、血圧のコントロールなども功を奏して、劇的に減少している。脳卒中には、血管が破れるタイプの出血性と、つまるタイプの梗塞(こうそく)性がある。血清コレステロールが低すぎると出血性の、高すぎると梗塞性の脳卒中が増えると考えられている。

コレステロールは、低栄養を補い血管を丈夫にする働きがある一方で、取りすぎると動脈硬化のもとになるという二面性がある。

心筋梗塞は、心臓に栄養を送る冠動脈がつまることで起こる。高コレステロール血症により冠動脈硬化が進み、心筋梗塞が起こりやすくなる。

ただ、日本人は欧米人と同じ血清コレステロール濃度の人でも、心筋梗塞になりにくいと考えられている。

戦後の肉と脂質の増加は、栄養状態を改善し、血管を丈夫にし、感染症や脳出血を減らす役割を果した。日本人の平均寿命の伸びの一翼を担ってきたにちがいない。一方、欧米レベルの過剰摂取による、心筋梗塞や脳梗塞の増加が危惧されている。

1970年代以降、日本では肉と脂質摂取の増加傾向は止まり、むしろ減少傾向にある。総合的に、健康で長生きするためには、どの程度の摂取量が良いのか、血清コレステロールはどの程度が最適なのか、日本人を対象とした疫学研究に基づく証拠が求められる。

(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)
2006.2.26 日経新聞