戦前、日本人の主な死因は、結核や肺炎など感染症だった。1954年に、脳血管疾患が結核に代わり第1位になった。1981年から現在までは、がんが最大の死因となっている。
だからといって、日本人がなりやすくなったわけではない。戦後、感染症や脳卒中による死亡率が急激に下がったが、がんだけが取り残された格好だ。また、平均寿命の延びと出生率の低下で、がんになるリスクが高くなる中高年の人口が増えたことにもよる。
年齢による人口構成が一定であると仮定してはじき出す年齢調整死亡率だと、男性のがんは、戦前上昇した後に近年ではほぼ横ばい。女性では、1960年代前半をピークに、その後減少傾向にある。
結核は、2001年に年間3万5千人の新規発生が登録されたが、死亡数は2千5百人に過ぎなかった。1950年の結核死亡者数12万人と比べると隔世の感がある。
予防接種などの普及に加え、たとえ結核になっても、死に至らなくなったことが、戦後、結核死亡率激減の最大のポイントであろう。
英国で、1850年から1950年までの100年間、結核死亡率は、ほぼ同じペースで減少し続けていた。結核菌の発見、抗結核薬の開発、BCG接種の開始など大きな出来事があったが、死亡率減少を大きく加速させたわけではない。結核死亡率減少の最大の要因は、栄養状態の向上にあると考えられる。
日本でも、戦後、栄養状態が良くなったことが、結核による死亡者の減少に大きく貢献したようだ。脳出血が減ったのも、減塩や投薬で血圧がコントロールできるようになったほか、たんぱく質や脂質の摂取量が増え、血管が破れにくくなったことが大きいと言われている。
不自然な過栄養が続けば、血管が詰まったり、糖尿病などのメタボリックシンドロームを招いたりするが、そもそも栄養は健康維持の基礎だ。われわれの疫学でも、やせて栄養が十分でないと思われる中年期男女は、死亡リスクが高いことがわかった。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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