雑菌寄せ付けず

グルジアのジャワ村滞在中、われわれ日本人はみな、腹をこわした。1人は脱水症状まで起こし危うく命を落とすところだった。原因はよくわからないが、おそらく衛生面の問題だったようだ。
ジャワ村は牧畜地帯。昔の日本の農家のように、牛や羊の畜舎と家とが一体になっている。1日中、そこらかしことハエが飛び回っている。食事中もたくさんのハエが食べ物にたかっていた。
ジャワ村の人たちはどうして下痢をせずに済むのだろうか。秘訣は朝昼にほとんど欠かさず食べたり飲んだりするヨーグルトにあった。
日本で「お袋の味」としてぬか漬けがあるように、グルジアでは親から子、子から孫へと、ヨーグルトが受け継がれる。どの家庭も「うちのヨーグルトが一番」と自慢する。
家庭によって味はまちまち。色々と味見したが、酸っぱいものからそうでないもの、さらっとして飲みやすいタイプもあれば、スプーンなしで食べることのできない固形状のものもあった。
研究のためいくつかヨーグルトをおすそ分けしてもらい、日本に持ち帰った。栄養分析で使わなかった残りを、冷凍もせず冷蔵庫に放っておいたが、何日たっても腐る気配がない。おそるおそるなめてみると、現地で口にしたときと同じ味だった。
細菌専門家に調べてもらうと不思議なことがわかった。乳酸菌など3種類ほどの菌が検出され、腐る原因になる大腸菌などが存在しなかった。
牛乳を好む菌は色々ある。乳酸菌が一番多いと「発酵」し、大腸菌が多いと腐ってしまう。理由はよく分らないが、2、3種類の菌が支配し雑菌を寄せ付けていないため腐らなかったようだ。
分析結果を聞き、ヨーグルトのなかには天然の抗生物質のようなものが作られるのでは、と最初考えたがそのような物質は見つからなかった。
やがて我が家では朝食の定番メニューになってしまったが、その後、いくつかの疫学研究で毎日とると、体の免疫力があがることがわかってきた。
(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)

2006.6.18 日本経済新聞