原因は食べ方に

普段からたくさんの魚を食べているにもかかわらず、短命な地域がある。カナダの東端にあるニューファンドランド島だ。

1497年、イギリス人が見つけた「新しく発見された土地(ニューファンドランド)」は、世界3大漁場のひとつで沿岸、北大西洋、ラブラドルの3海流がぶつかり合い、魚がとてもよく捕れる。
皆が魚をたくさん食べ血圧も低く、心臓病などの循環器系疾患も少ないのだろうと1989年に調査に乗り込んだ。結果は見事に裏切られた。

50代前半で高血圧症の人は、男女とも50−60%。世界の平均の2、3倍で、肥満の人も同様に多かった。

血清コレステロールも男性の場合、平均値が100ミリリットルあたり217ミリグラム。半数近くが高脂血症にあてはまった。食塩摂取量も1日平均14グラムで日本人よりも多い。心筋梗塞(こうそく)による死亡率はカナダのなかでも最も高く、平均寿命は最低だった。

短命の原因はどうやら魚の食べ方にあるようだ。
検診の場となったセントジョンズはニューファンドランド島最大の港町。水産加工業が盛んで、水揚げされた魚は塩漬けされて米国やカナダの各地に運ばれていく。
漁港といっても、日本人のように新鮮な魚を刺し身や焼き魚などに調理して食べる習慣はない。スコットランドからの移住者なので、塩漬けにした白身魚を動物性油脂で揚げ、ステーキ代わりに腹いっぱい食べる。寒冷地という場所がら、新鮮な野菜や果物を口にすることも少ない。検診ではカリウムや食物繊維が不足がちなこともわかった。

野菜の摂取量が足りないと、塩やコレステロールの健康への害を妨げることができない。イギリス人が大好きな「フィッシュ&チップス」は油で揚げた魚とじゃがいもを強い塩味で食べる。これでは、せっかくの魚とじゃがいもの効用も台無しだ。

ニューファンドランド島に暮らす人々の健康を考えると、せっかくの魚のメリットがいかされておらず残念で仕方なかった。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)

 2006.9.24 日本経済新聞