化粧の効用 心にも
「メークボランティアです。お化粧していきませんか」。宮城県石巻市の避難所。かづきれいこさんが、女性たちに声をかけた。
かづきさんは、やけどや傷痕などをカバーする「リハビリメーク」で知られる化粧の専門家。
70代の女性が声に誘われてイスに座った。クリーム、ファンデーション、おしろい、口紅……。かづきさんたちが手際良く化粧を施す。
「ふふ、気分いいね。以前は毎日お化粧をしていたけど、震災後は化粧品もなかったので久しぶり」と、この女性。手鏡に顔を映し、柔らかな笑顔を見せた。
様々な年代の女性たちから「いらいらがおさまった」「心も体も疲れ切っていたのに、気分が楽になった」などの言葉がもれた。
不思議に感じた。皆、口紅をつけたとたんにかわいらしくなる。空気も華やぐ。年齢は関係ない。お化粧の効用、確かにあるようだ。
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石巻市への化粧ボランティアの前に、かづきさんの話を聞いた。年を取ることを、こう表現した。
「鏡を見て、今日はきれいだな、と思う日が若い時には週4日あった。でも50代になると2週間に1回ぐらい。きれいだと思う回数が減っていくのが、年を取るということなんです」
だからと言って放置してはいけないという。
「化粧をすると気持ちがしゃんとする。人に会おうっていう気になる。それが女性を若々しくするんです」
私もかづきさんにお化粧をしてもらった。印象的だったのは、化粧前の「土台」作り。顔をマッサージして引き締め、肌のツヤを良くする。年齢とともに、この土台作りが重要になる。
粘土をぺたぺたと形作るように、かづきさんは手のひらで私の顔をマッサージした。ちょっと痛かったが、出来上がった顔は、普段よりすっきりしているように感じられた。
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石巻市の避難所の話に戻る。
「私、来年還暦なの。孫もいるのよ」と、かづきさん。20代の女性から「えーっ、信じられない。私もそんなふうに年を取れたらいいな」と声が上がった。
被災地ボランティアはこの日で3回目。これからも続けるつもりだ。「化粧?」と、けげんな顔もされるが、終わった時に、皆笑顔になるのがうれしい。
「ちょっと待って」。取材を終えて、引き揚げようとする私を、かづきさんが引き留めた。カミソリを手に、私の眉を整えてくれた。
「ぼさぼさだと、気分が暗くなる。元気出ないわよ」(編集委員 知野恵子)