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4.接着に関するレポート@下記のレポートでのメタル修復はWFでは Aインレー形状の修復物も超接着を持ってしても、数年で、マージン部でのセメント崩壊を認めるので、咬合面に堺を置く詰め物はすべて奥歯では禁止しております。 B形成によって露出した象牙質の処理も、現在では、NC消毒洗浄後、フッ化銀塗布と、ルクサボンドによる表面処理に2011年より、変更しております。 「齲蝕治療と修復処置」 ―治癒をもたらす象牙質コーティング― 第一生命保険日比谷診療所 歯科医長 安田登 歯科衛生士 深川優子 象牙質齲蝕は疾病 保存修復はリハビリテーション 象牙質齲蝕は疾病である。そして外胚葉由来のエナメル質が破られて象牙質が露出したということは、皮膚や粘膜などの上皮が破られて中胚葉由来の結合組織にまで達する創傷になったことと同じである。象牙質齲蝕=創傷と捉えられる由縁である1)。 しかし齲蝕が治癒して、その後に残された痕跡(齲窩)は疾病とは考えにくい。この痕跡は事故や傷害によって四肢を切断され、その傷が治った後と同じとは考えられないであろうか。 そうするとこれは一種の障害であり、そこに施す処置は機能回復や審美性回復を主とするリハビリテーションの意味を持つ。いうならば保存修復はリハビリテーション医療の一つなのである2)。 なにをもって齲蝕の治癒とするか さて、疾病としての齲蝕はなにをもって治癒としたらよいであろうか。 身体の他の部位では瘢痕組織の形成を経て、傷口が再び上皮によって覆われたときを創傷の治癒としている。しかし周知のように歯は再生力に乏しく、歯における上皮、すなわちエナメル質が回復することはない。 そうするとどこかで、誰かが人工的にエナメル質(上皮)を象牙質の上に生成してやる必要があるのではないだろうか。 従来までの修復物はなぜ人工エナメル質としての意味をなさなかったのであろうか。天然のエナメル質に比べて機械的性質が劣っているのであろうか?あるいは審美性に欠けるのであろうか? しかし、近年の材料学の進歩でこの2点、十分にクリアしていると考えられる。恐らくもっとも足りないのが象牙質との一体化、すなわち生体の保護膜としての機能ではないだろうか。 人工エナメル質(上皮)としての樹脂含浸層 生体の保護膜としての人工上皮の考えにもっとも近い概念が樹脂含浸層である。1982年に東京医科歯科大学の中林宣男教授によって発表され、象牙質との接着機構解明に大きく貢献するものとして世界中で評価されている。 脱灰された表層象牙質にレジンが浸透、硬化して象牙質の構成成分であるハイドロキシアパタイトやコラーゲンに絡まった層を言う。樹脂含浸層は耐酸性で、有機成分の耐分解性、そして物質の不透過性が確認されている。 そうするともし表層象牙質がこの樹脂含浸象牙質に改質されると、脱灰もしなければ、有機質の分解も起こさない、いわば齲蝕にならない層に変化したことを意味する。 著者は中林と共に樹脂含浸層の生成を伴う接着をとくに超接着と呼び、樹脂含浸層とその上のレジン層を人工エナメル質(上皮)と位置づけている。 もちろんエナメル質の機械的性質や審美性が回復されたわけではなく、象牙質や歯髄をはじめとする下部組織を保護するという生物学的意味における人工エナメル質の誕生である3)。 超接着による齲蝕治療と修復処置の実際4) それでは超接着の概念を活かした齲蝕治療の実際を以下に示す。 その基本概念は前述のとおり齲蝕治療とその後に施す修復処置とは全く別なものと理解することである。 1)1st step:感染歯質の除去と無菌化(図1〜5) 齲蝕治療の第一段階は身体の他の部位における殺菌消毒であり、細菌に感染して壊死した組織を取り除き、無菌化を図ることである。 硬組織である歯質の場合には機械的な除去がもっとも容易で効果的であるが、その前にどの部分が感染歯質かどうかを見極める必要がある。 この見極めにもっとも威力を発揮するのが齲蝕探知液である。探知液によって染色された部分だけを選択的に削除する。この際は麻酔をせずスプーンエキスカなどを使用するとよい。麻酔も、回転切削器具も使用しないのはあくまで健全象牙質の無用な削除を避けるためである。 患者が疼痛を訴え始める時点で細菌層はあらたか除去されたと思われるので切削は終了するが、場合によっては残存細菌層をさらに無菌化するために抗菌剤を使用することもある。 2)2nd step:創面の封鎖(図6〜12) 感染層の削除と抗菌剤の応用によって無菌化をはかることができたなら、接着性レジンの応用で確実な封鎖を行う。これには超接着の概念による象牙質コーティングを行い、人工エナメル質(上皮)を生成して治癒に導く。そしてこの段階までを齲蝕治療と理解する。 具体的には象牙質のボンディング剤としてスーパーボンドC&B、あるいはスーパーボンドDライナーデュアル、その上に硬い被膜を得るためにSBコート(内側性)を使用する。 3)3rd step:修復処置 修復のための削除(保持形態、抵抗形態など)は基本的には行わないが、行う場合にはエナメル質内に限局する。ただし、SBコートがエナメル質も被覆していることが考えられるので、大き目のラウンドタイプのダイヤモンドポイントで窩洞辺縁のエナメル質を露出する(図13)。 その後印象、修復物製作に当たっては通法どおりとするが、次の接着に影響を及ぼさない材料(水硬性セメント、ストッピングなど)で仮封する(図14) 健全歯質の削除を極力抑えた結果、維持形態、保持形態、あるいは抵抗形態など従来考えられていた概念が窩洞に付与されていないので、修復物の装着に当たっては、修復物の材料による適切な接着操作を行うことが重要である。 金銀パラジウム合金インレーの接着 以下に修復物として金銀パラジウム合金インレーを選択した例を示す。 1)歯面および修復物内面に対する接着前処理 [歯面]最初に窩洞内面の仮封剤や仮着セメントを除去する。機械的に除去するのが最も効果的で、最終的にはブラシコーンと研磨剤で清掃すると確実である(図15)。 重炭酸ナトリウムの微粒子を圧で噴射する歯面清掃器の使用も効果的である。 接着対象歯面は多官能性メタクリレートで構成されるSBコート面と窩洞辺縁の露出エナメル質になる。したがって、歯面処理はエナメル質用のエッチング剤(リン酸水溶液)を用いる(図16)。 [修復物]金属に対する接着にはアルミナのサンドブラスト処理が極めて効果的である。 通常は技工室であらかじめ処理しておくが、チェアーサイドで使用可能な製品もあり、試適後に改めて行うとさらに効果的である(図17、18)。 金銀パラジウム合金は貴金属に属するのでサンドブラスト面に貴金属専用のプライマーであるV-プラマーを塗布する(図19、20)。 2)セメントとして用いるスーパーボンドC&Bの練和 修復物装着に際してスーパーボンドC&Bをセメントとして用いる場合、粉は別売りのラジオぺークを使用するとよい(図21)。 修復物下部のセメント層や隣接部に取り残した余剰セメントがレントゲン撮影によって判別可能だからである。 スーパーボンド練和の基本はモノマー液4滴にキャタリスト1滴の割合で混和した混合液に、ラジオペークを小カップ1杯の割合で調合し、筆を用いて混和する(混和法) (図22)。 多数歯を同時に取り扱う場合や、夏季気温の高い時期に操作時間を延長させるためにはモノマー液、ダッペンディッシュを冷蔵庫で冷却し低温にしておくこと、粉液比を少なくすることなどが考えられている。 3) 窩洞へのインレー装着 修復物内面に塗布してから、窩洞にも塗布する(図23、24)。 インレー体を定位置に置いたらピンセットの先で振動を加えながら圧接する(図25)。 ほぼ定位置に収まることを確認したら、咬合面上の余剰セメントを固く絞ったアルコール綿球で拭う(図26)。 その後、割り箸などを用いて咬合させ、さらに圧接し完全に定位置に収まることを確認する。 余剰セメントの除去は糸引き状態からゴム質に変わる頃がもっとも取り易いので、その時期を見計らって隣接部、歯頸部の余剰セメン卜を除去器、デンタルフロスなどを用いて除去する(図27〜図29)。 支台歯形成によって露出した象牙質の保護(図30-図37) 欠損歯列の補綴、審美的要求等によってやむを得ず健全象牙質を削除しなくてはならない場合、露出した象牙質は細管が開口し外界からの刺激が直接歯髄に伝達されやすい。そこで、形成後(象牙質露出後)、直ちに超接着操作をもって人工エナメル質(上皮)を生成する。 全部被覆冠の生活支台歯の保護を例に取るが、接着操作は齲蝕治療後の人工エナメル質(上皮)生成と同様である。ただし、ここで用いるSBコートは外側性の粘度の薄い方である。塗布、重合硬化後、仕上げ用のダイヤモンドポイントを用いて辺縁部歯質の露出、SB コート面の仕上げを行う。 おわりに 何度も繰り返すが、齲蝕治療と修復処置とは全く次元の迷うものである。 疾病である齲蝕の治癒を見ずして、修復治療に移ることは厳に鎮まなくてはならない。そして、齲蝕治療の治癒は超接着による象牙質コーティングによって達成される。 この後の機能回復と審美性回復を目的として行われる修復処置は、生体に対して最小限の侵襲で行われるように配慮しなければならない。 参考文献 1) 井上孝,下野正基:治癒の病理・臨床編(下野正基,飯島国好編), 53-74,医歯薬出版,東京, 1993 2) 安田登,豊島義博:攻めるか守るか―医療モデルか生活(QOL)モデルか―,日本歯科評論,670:9-11,1998. 3) 中林宣男,安田登:超接着―人工工ナメル質をめざして―,QE, 14(1):42-46,1995. 4) 安田登,鯉渕秀明:接着の予防的視点に基づく臨床応用のすすめ―生物学的封鎖のための象牙質コーティングー, QE year book 1996,27-38,1996. |