Lesson7

松本 光彦 まつもと みつひこ
日本大学歯学部講師(口腔外科学教室第二講座)
歯学1971年日本大学歯学部卒業、75年同・大学院終了(口腔外科学専攻)
1947年2月生まれ、岐阜県出身  
主研究テーマ:口腔癌の頸部リンパ節転移に関する研究
要約
口腔癌の発見は大半が直接口腔内を診察する歯科医師によってなされている。歯科医師が患者救済に極めて大きな役割を果たしていると同時に、重大な責任も有している。
癌早期発見の一助となることを願って、我々が行っている手術療法を主体とした口腔癌治療の現状と課題を述べさせていただく。
口腔癌の治療方針は他部位の癌と基本的に変わるところはない。一言で言うならば「早期発見・早期治療」に尽きると考えている。
はじめに
日本人の死因の第一位である悪性新生物は1996年に死因の30%近くに達している。2000年の厚生省の「人口動態統計の概要」1)では、平成10年の日本人の年間死亡者数は94万人である。その内悪性新生物(癌)による死亡者は28万人以上にのぼる。また、癌罹患患者数は136万人とされ、癌の死亡率は部位別に異なり、性別によっても異なっている(図1)

口腔癌の発生は必ずしも多いものではない。全癌に占める割合は3%程度とされている。舌癌の発生率が最も高く、口腔癌全体の60%近くに達する。癌は発生部位により治癒率がことなるが、口腔癌は中間に属するものとされ、舌癌の5年生存率は概ね60〜70%であるが、進行癌や頸部リンパ節転移を有する症例の予後は不良である。救済された患者でも口腔という特殊領域に生じた癌治療後には、程度の差はあれ摂食、嚥下および構音など日常生活の根本に係わる口腔機能障害を後遺する。

顎口腔領域に生ずる悪性腫瘍は多様であるが、組織学的には扁平上皮癌が圧倒的に多く、ついで唾液腺に生ずる腺様_胞癌などの上皮性悪性腫瘍である。肉腫は稀である。また、他部位からの転移性腫瘍や悪性リンパ腫が口腔に腫瘤や潰瘍をつくることもある。

以上のことを念頭に口腔癌治療に携わる一人として、組織型の大半を占める扁平上皮癌患者に対する治療の実際と今後の課題について述べさせていただく。先生方の口腔癌の早期発見にいささかでもお役に立てれば幸いである。
1.開業歯科医師の役割の重要性について
口腔癌は口腔外科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科など様々な施設で治療されているが、歯科医師の取り扱う疾患の中では唯一致死的な疾患であるため口腔外科疾患の中でも最も重要な疾患として位置づけられている。

口腔外科関係の学会の演題および口腔外科学会雑誌の掲載論文に占める割合も悪性腫瘍に関するものが最も多く、第43回口腔外科学会総会で神山ら2)は15年間に同学会誌に掲載された論文数を調査した結果23.3%が悪性腫瘍に関する論文で最も多く、経年的に増加していたとしている。この数字から口腔外科施設で取り扱う顎口腔領域の悪性腫瘍はますます増加していると考えられる。

口腔癌の発見は大半が直接口腔内を診察する機会を持つ歯科医師によってなされ、患者は歯科医師から母校の口腔外科や近郊の口腔癌治療施設に紹介される場合が最も多い。最初に口腔を診察する歯科医師が患者救済に如何に大きな役割を果たしているかを示すものであると同時に、また責任の重大さも示していると言える。

口腔癌は直接肉眼的に診断が可能であるという点で、他部位の癌と異なり早期発見に大きな利点を有しているが、専門施設受診時には必ずしも早期癌ばかりとはいえないのが現状である。この理由の一つとして多くの早期癌では疼痛は強くないことが挙げられる。

もう一つは、一般に口腔癌に対する社会の認識が不十分である可能性が考えられる。

1996年の日本口腔腫瘍学会では、併催行事として「市民のための口の癌の話と室内楽の夕べ」と題して無料の講演会と音楽会が催された。また今年の日本口腔科学会総会でも市民公開講座で「わたしの健康、あなたの健康−あなたにもわかる口の中のがん−」という講演が行われた。

我々の大学でも一昨年から全学部が参加する大学祭および歯学部学園祭で「お口の癌」というパネルを作成して、一般の人々に口腔癌写真を展示供覧し、無料の健康相談を行っている。
2.当教室における口腔癌について(表1)
当科では放射線治療設備がないため手術主体の治療法で対応しているが、放射線治療が適応と考えられる症例は、隣接する駿河台日大病院の放射線科あるいは患者の近在の放射線治療設備のある施設に紹介している。また手術、放射線治療のどちらでも根治が望める症例はそれぞれの治療法の利点欠点を説明した上で、患者自身さらには、家族の希望も汲み取って治療方法を選択してもらっている。したがって来院患者のうちかなりの症例が転院する。

さらに舌癌の占める割合が他施設に比較して35.2%と著しく少ない特徴がある。1988年4月から2000年3月までの、12年間における口腔悪性腫瘍の大半を占める扁平上皮癌一次症例で、当科で原発巣の根治手術を施行した症例は210例である。

患者の来院経路は開業歯科医師からの紹介が82.4%を占めている。性別では男性が女性の1.6倍で、年齢は19歳から87歳、平均62.5歳である。口腔癌は疼痛が比較的軽度で、とくに初期の段階では強い疼痛を訴えることが少ない。

口腔癌の肉眼的所見は多彩で、同じ部位に同じ組織型の癌が生じても、詳細には人の顔と同様に極めて多様性に飛んでいるが、あえて区分すると概ね5つに分けられる。潰瘍型、肉芽型、膨隆型、白板型、乳頭型である。当科の症例では潰瘍型が54.3%と最も多く、次いで肉芽型、膨隆型の順にみられる。一般に潰瘍型と膨隆型は内向性の発育をする癌が多く予後の悪い例が多い。また、前癌病変の診断も大切で、口腔白板症や紅斑症の段階で癌化する注意を払い、これらの治療あるいは厳重な経過観察により初期の癌を発見することも重要である。

すべての癌の進行度は国際規格で決められており、口腔癌3)も同様である。当科の口腔癌を進行度順(ステージ?期〜?期)に大別すると?期38例、?期56例、?期61例、?期55例で早期癌より進行癌の方が多い。

口腔癌のリスクファクターとして、喫煙と飲酒が最も緊密な関係を持っていることは従来から指摘されており、歯列不整、齲歯、不適合充填物補綴物などが誘因と推測される症例もみられるが口腔環境だけが癌発生の要因ではない。近年遺伝子に関する研究が急速に進歩し、周知の癌抑制遺伝子であるp53遺伝子の他、多数の遺伝子および癌に対する様々な基礎的研究が口腔癌研究者によってなされ、臨床にも応用され始めているが、現時点ではまだ十分な結果が出ていない。しかし近い将来遺伝子診断および癌の増殖・転移機構が解明され、臨床応用が本格化すると思われる。

近年カルテ開示が盛んにマスメディアを中心に叫ばれ、ここ数年の有名大学病院の医療事故をきっかけに法制化の動きが加速する可能性がある。昨年8月6日に毎日新聞の一面に医療施設別の胃癌治療の成績が掲載され、直後の9月24日の『サンデー毎日』が同様の内容を評論した記事を掲載しており、施設はもちろん術者個人の手術成績の公表も必要ではないか、と結んでいる。口腔癌に関する治療成績も口腔癌取り扱い施設毎に公開する時代が来ることも予測される。

昨年11月15日の総務庁の推計では65歳以上の人工は2,190万人と増加し、平均寿命の延長と共に高齢口腔癌患者も増加し、平均余命との関係からも新たな問題が生じている。
3.告知とインフォームド・コンセントについて(表2)
癌の告知については、マスメディアからも多くの提言がなされ、近年ではコンセンサスができつつある。当科では一般に告知する方針であるが、本人に告知をする前に、配偶者に確認する場合が多い。患者自身に病気の実態を理解してもらわないと術後の協力を得られにくく、術後長期にわたり病気と共に戦うという姿勢が整わないと考えている。

手術を受ける施設の選択は家族の意向も汲んで患者自身に決定させている。当科で手術を希望する場合は術式と術後予測される後遺症を具体的に説明し、それに係わる事項を説明し理解を得るよう努めている。インフォームド・コンセントを行う際には患者と家族を含めなるべく多くの関係者の前で、具体的な数字や客観的事実を提示するようにしているが、進行癌では家族に局所再発、後発転移あるいは遠隔転移の可能性があることを十分理解してもらう必要がある。この具体的な説明方法は日本で初めて肝臓移植をされた九州大学医学部第二外科杉町圭蔵教授の第15回日本口腔腫瘍学会の特別講演の内容(4)を参考にさせていただいている。
4.術前検査と術前治療について
当科の口腔癌治療の基本方針は早期診断、早期手術である。喫煙飲酒歴の長い患者では上部消化管に重複癌を有する患者が少なからずあるため、内視鏡による上部消化管の検査も可及的に行っている。さらに詳細な検査が必要で検査にある程度期間がかかる場合はその間Carboplatin+5-Fuの投与を主体に術前化学療法を施行している。化学療法を術前治療の主体とする施設や30Gy程度の術前照射後に手術を施行する施設あるいは化学放射線治療後に手術を行う施設など様々であるが、当科では術前照射をする症例は少ない。

頸部リンパ節転移の術前診断は触診が主体ではあるが、肥満者や胸鎖乳突筋の発達した患者では発見が困難な場合も多く、小さいものは触知不可能である。転移リンパ節発見の補助手段として造影CT X線写真、MRIおよびエコー像を参考資料としている。最近放射線物質を応用した転移リンパ節発見の診断方法が乳癌や胃癌を中心に試みられかなりの精度であるとされている。やがて口腔癌でも同様な診断方法が普及することも考えられる。
5.扁平上皮癌の手術成績について(表3)
術式に関して考慮すべきことは頸部郭清術を合わせて施行するか否かである。原発巣不制御による死亡例に比較して、頸部リンパ節転移の不制御による死亡例が多いという調査結果から、患者救済のためにはリンパ節転移をいかにして予測し制御するかが現在における口腔癌治療の最重要課題と考えている。頸部郭清術は頸部リンパ節転移を有する患者の唯一の救済手段であるといっても過言ではないが、その時期、範囲、術式などについては、なお議論の余地が残されている。

根治手術施行210例中、頸部郭清術施行例は原発巣切除と同時145例(後日反対側の追加郭清例10例を含む)と原発巣切除後の後発転移による異時的頸部郭清例4例との149例である。

原発巣切除のみの61例では生存53例、死亡8例であるのに比べ、予防的頸部郭清術施行例を含めても頸部を必要とした例では、当然原発巣の進展例が多いことから、生存103例、死亡46例で、この内病理組織学的に転移が認められた66例では生存37例、死亡29例と経過不良で、死因として頸部リンパ節転移不制御および頸部郭清術後の頸部再発不制御が多い。また全54症例の死因でも、頸部転移および頸部再発不制御23例と多く、原発巣不制御13例、遠隔転移不制御6例で、他癌死4例、他病死8例である。副咽頭間隙に転移あるいは再発病巣の進展した症例では全例救済し得ていない。

頸部郭清術施行率の高い下顎歯肉癌の治療成績が最も良好であること、原発巣と頸部郭清組織と一塊として摘出できない上顎癌症例や原発巣が小さくても頸部郭清組織と別個に切除する症例では原発巣再発が多いことから、頸部リンパ節転移を有する症例では頸部へのリンパ管のみならず血管にも癌細胞の遊離接着の可能性があるのではないかと考えており、これらの術式別の転帰や再発様相などを調査している5)。

当科の扁平上皮癌新鮮例の手術成績は5年累積生存率は舌癌6)で66.7%、下顎歯肉癌7)で78.3%、全症例では72.8%である。この治療成績の向上には頸部リンパ節転移の有無の術前診断を如何にして向上させるかが重要である。
6.口腔癌切除後の軟組織ならびに硬組織再建について
有茎弁であるDP皮弁が口腔外科の軟部再建術に用いられたのは1978年以降である。当科でも1980年にこれを導入したが、手技が簡便で侵襲が少ないことから現在も断続的に用いている。1987年に大胸筋皮弁を導入し一期再建が可能となったが、それ以外はDP皮弁の欠点を補完するものではなかった。

1981年遊離前腕皮弁が開発され、これが口腔外科領域に応用されると、有茎弁の欠点のすべてを解消する優れた軟部再建材料として広く斯界に定着した。当科でも1991年に遊離前腕皮弁を、1992年に遊離腹直筋皮弁を導入し、爾後は遊離前腕皮弁を第一選択として口腔癌切除後の軟部再建に対処している。現在約9年経過し35例の遊離移植例中18例が生存し、従来ならば手術が不可能と考えられた症例が多数含まれており進行癌患者救済に大きく貢献しているものと考えている。

下顎骨切除後の再建については、1990年から10年間に辺縁切除以上の下顎骨切除を行った症例のうち転帰の明らかな86例についてみると、辺縁切除61例、区域切除23例、半側切除2例で、再建様式は金属プレートのみによる例は辺縁切除6例、区域切除例15例、半側切除例1例の計22例で、即時自家骨移植例は区域切除3例、二次自家骨移植例は区域切除4例の計7例で、区域切除以上の切除例の26%に施行した。転帰は、金属プレート例は生存17例、死亡5例、即時自家骨移植例は生存2例、死亡1例、二次自家骨移植例4例は全例生存、非再建例は生存44例、死亡13例である。

すなわち、当科の下顎切除後の下顎再建は金属プレートによる暫間的な再建を主体としているが、下顎の即時再建は今後の重要課題の一つと考えている。
7.術後の治療方針および関連施設との連携について
複数の転移を有する症例や、転移リンパ節皮膜外浸潤症例では、根治線量の術後照射と化学療法を2ないし3クール行う方針で対応している。上顎の進行癌で原発巣の十分な安全切除域を取りにくい症例では術後照射を行う場合も多い。原発巣および頸部再発の大半は術後半年から1年の間に確認されることが多く、この間の経過観察が極めて重要である。

治療不可能な再発進展例では、2000年4月から頭頸部癌適応になったドセタキセル(商品名タキソテール)の投与を試み始めたが症例が少なく評価には至っていない。

現在、長年の臨床の交流で駿河台日大病院の放射線科医を始め、耳鼻咽喉科医、内科医および他施設の口腔外科医や癌治療専門医とも症例に関し意見交換ができる環境が整ったことは、患者にとってはもとより我々にとっても裨益するところが大きい。この連携や情報交換は、個人的な繋がりから施設間の関係として発展させてゆかなければならないと思っている。
8.後遺症と精神的負担について
退院後術後1年間は週1回、2年目からは隔週、3年目からは月1回、4年目、5年目は3ヶ月に1回の外来診察を原則としている。原発巣再発、頸部再発例の大半は術後6ヵ月前後から1年以内で、2年目に入ると著しく減少し、3年目からは局所再発および後発転移は極めて少なくなるため、術後1年間の視診触診を中心に核医学的診断および画像診断を加えた経過観察が極めて重要である。なお、腫瘍マーカーについてもかなりの症例数について検討したが、口腔癌では他部位の癌のように鋭敏なマーカーはない。

患者は様々な後遺症に悩まされている。口腔癌切除後のアンケート調査を行った結果、最も多い悩みは摂食障害とであった。しかし、「顔面や頸部の傷跡も、食事が十分に摂れないこともやむを得ないと思います。それよりもいつ再発するかと心配でそればかり気にして毎日を送っています」という回答があり、これこそ大半の口腔癌患者の術後の率直な気持ちだと思われる。患者は術後も長期にわたり常に再発・転移の不安と戦っている。

摂食は食物の形状を工夫することで可能であり、インプラントの応用で固形物の摂取が可能となった症例もある。しかし手術後嚥下障害が強度で胃瘻形成を止むなくされ経口摂取を生涯諦めざるを得なかった症例を経験して、嚥下機能の温存が術後のQOLの確保に最重要であると考えている。摂食・嚥下障害に関する書物は多いが、我々もそれらを参考にリハビリなどを行っている(8)。

咀嚼障害に関しては歯科医師が診断治療を行うのが妥当と考えられるが、現状は患者が耳鼻咽喉科に診察を受けて障害認定の書類を受け取っているのが実情である。歯科医師は身体障害者福祉法第15条では意見書を添えるのみで、障害者手帳交付のための作成はできないこととなっており、特に口腔癌治療後の咀嚼障害に関して診断書作成依頼の多い口腔外科医にとって非常に不便な制度が長く続いている。2000年6月15日発行の日本口腔外科学会の広報に法案改正の必要性を学会理事長が記載(9)しているが、日常の現場からも患者のために一日も早い法案の改正が望まれる。

癌に関する書物は、大きな書店の一角を占めるくらい多数出版されているように、癌患者が如何に多いか、また癌で悩んでいる人が如何に多くなってきたかが伺われる。繰り返すが患者は常に「死」の恐怖と闘ってきている。きめ細やかな定期的な診察と検査に加え、共に癌と闘っている姿勢を明確に伝える以外不安をいささかでも和らげる手段はない。
9.末期癌患者への対応について
口腔癌末期患者は、癌の浸潤増大による顔面、頸部の崩れ、出血、気道閉塞、発声や経口摂取困難など特有の苦痛はあるが、なかでも疼痛はQOLに直結するためモルヒネ製剤を積極的に使用している。当科で死亡した口腔癌末期患者のモルヒネ製剤の使用量、使用方法および疼痛緩和効果などの調査では、堪え難い末期癌疼痛に苦しむ症例はなく疼痛管理は概ね効果的であると考えられているが、傾眠傾向の著しい症例など投与量の決定の困難な例もみられる。また、便秘や不安感の解消の目的で下剤や向精神薬など多種類の薬剤を併用している。

精神的なケアは画一的でなく対応が困難である。末期癌患者の精神的ケアに関しては今後学んでいくべきことが多く、家族への精神的援助を含め課題の一つと考えている。
10.頸部リンパ節転移に関する研究について
予後を左右する頸部リンパ節転移に関しては原発巣の組織学的悪性度のみの検討では必ずしも十分な結果が得られておらず、画像では分かり得ない口腔癌のリンパ節転移を詳細に術前に予測できる手段があれば、患者救済の大きな利点となるばかりか、古くて新しい議論の対象となっている潜在性頸部リンパ節転移の予防的頸部郭清術の適否あるいは郭清範囲を決定する指標に大きな役割を果たすものと思われ検討を続けている。

リンパ節転移予測の可能性を探る目的で、近年腫瘍増殖の指標として用いられてきている核抗原Ki−67を用いた生検標本の免疫組織化学的検索により口腔癌の頸部リンパ節転移を予測しうる可能性が示唆された10)。

また、現在口腔領域悪性腫瘍患者の主として手術時切除標本の一部を試料として、アポトーシス・細胞周期・接着因子に関与する蛋白の発現を免疫組織化学的に検索すると共に、予後との関係および予後因子としての有用性について検討を加え、予後に関与する因子を導き出すことを目的とした検討を行っている。
おわりに
口腔癌切除後の遊離組織移植再建により進行癌でも原発巣の完全切除が可能となった症例も増加した。しかし進行癌では頸部リンパ節転移を生ずる症例が増加し、それが集学治療効果を十分発揮できず、直接死亡に繋がるケースが少なくない。時には初診時すでに癌の進行が著しく根治治療が不可能な症例さえ見受けられる。

口腔癌の治療方針は他部位の癌と基本的に変わるところはない。一言で言うならば「早期発見・早期治療」に尽きると考えている。

口腔癌の早期発見には歯科医師の役割が重要であることを改めて強調して稿を終えたい。
参考文献
1) 厚生統計協会:国民衛生の動向.47(9):48〜54,2000.
2) 神山卓久、今井 裕ほか:最近15年間における日本口腔外科学会雑誌の情報科学的分析.第43回日本口腔外科学会総会抄録集、P.392,1998.
3) UICC:TNM Classification of Malignant Tumours ; 5th ed., A john wiley & sons, inc., publication, P. 20〜24, 1997.
4) 杉町圭蔵:外科手術とインフォームド・コンセント.第15回日本口腔腫瘍学会総会特別講演,1997.
5) 松本光彦、下山祐子ほか:口腔癌の頸部リンパ節転移に関する研究、第3報 頸部郭清術式の臨床的評価.日大歯学,72(5):660〜668,1998
6) 松本光彦,下山祐子ほか:舌扁平上皮癌の手術成績.日大歯学,74(1):92〜97,2000.
7) 松本光彦,渡辺 直ほか:下顎歯肉扁平上皮癌の手術成績.日大歯学,74(4):651〜658,2000.
8) Logemann, J. A.: Logemann 摂食・嚥下障害.道 健一,道脇幸博監訳,第1版(2nd
Ed.), 医歯薬出版,2000.
9) 瀬戸皖一:歯科医師の分眼を巡る_儻不羈.日本口腔外科学会広報,No.31,2000.
10) Matusumoto, M., Komiyama, K. et al. : Predicting tumor metastasis in patients with oral cancer by means of the proliferation maker ki 67. J. Oral Sci., 41(2) : 53〜56,1999
 
日本歯科医師会雑誌 Vol.54 No.4 2001-7