喫煙者は、非喫煙者に比べて歯周病の治療の機会がより多くなる。一般歯科を受診した患者層に比べて、歯周病専門医を受診した中等度歯周病および重度歯周病の患者層では、現在喫煙者が有意に多いことが示された。また、歯周治療の必要度を表す指標(CPITN)を用いて喫煙者と非喫煙者を比べると、喫煙者の必要度が高かったことも示されている。臨床の現場からは、特に喫煙と関連する歯周病という意味で、
表3に示されるような臨床像を特徴とする喫煙関連性歯周炎が最近提案された。
喫煙の影響は若年層でより顕著であることが示されている。
図5は、当教室が行ったCPITNを用いた調査結果で、歯周処置が必要な歯周ポケット有病部位数を年齢・喫煙習慣別に示したものである。喫煙者では歯周治療必要部位が多いことが分かるが、喫煙者では非喫煙者より若い年齢層で増加していることが理解できる。
図6は喫煙の歯周病に対する寄与の程度を示しており、19〜30歳で51%、31〜40歳で32%であった。また、20〜30歳の確立期の歯周炎を指標とした場合、喫煙者のリスクはオッズ比で14.1であったという。したがって、若年齢層の喫煙者を見る場合、未だ顕在化していない歯周病の症状の発見に努めるべきであろう。
歯周病はプラークに起因する疾患である。
図7には口腔清掃を中止し、実験的にプラークを蓄積させ、歯肉炎症を惹起させて、喫煙の影響を比較した研究結果を示した。喫煙者と非喫煙者との間にはプラークの蓄積量には有意の差が認められなかった(A)が、プロービング時の歯肉出血(B)および歯肉溝滲出液量(C)が喫煙者で少なかった。
この結果にもみられるように、喫煙者ではプラーク蓄積に対する歯肉の炎症反応が小さいことが示されている。非喫煙者でもそうであるが、喫煙者の場合は特に、歯肉所見のみで歯周病の診断を下すことは禁物である。そして、喫煙者では自覚症状としてのブラッシング時の出血も少なくなることが予測され、歯周病の発見が遅れることもあるのではないかと思われる。
喫煙は歯周治療の予後にも関与している。
表4は、様々な方法を用いた歯周治療の予後に関する研究結果をまとめたものである。スケーリングおよびルートプレーニングといった非外科処置では、喫煙者のプロービングの深さの減少は、非喫煙者と比べて臼歯部では同等だったが前歯部で減少が小さかった。歯周外科手術を受けた患者に長期間の追跡調査を行ったところ、喫煙者では非喫煙者に比べて有意にポケットが深くなり、アタッチメントレベルの獲得が小さかったことが報告されている。
この他、喫煙者では、歯肉粘膜弁移植、インプラント術31)の成功率が低く、GTR後のアタッチメントの獲得も少なかった。また歯周治療の予後が悪いものを難治性歯周炎と呼んでいるが、このタイプの患者を調べたところ90%以上が喫煙者だったと報告されている。
このように、歯周治療の効果が喫煙者では小さいことが明らかになった現在、喫煙者に対して行う歯周処置については、前もって、その効果が小さいことがある旨、患者に了解をとっておく必要があるのかもしれない。