東京都の放射性物質(放射能)に関する電話相談窓口には最近、こんな相談が寄せられている。
「小学生の子供が下水処理施設の見学に行くけど、大丈夫でしょうか」
東京電力福島第1原発の事故以降、東日本を中心に、雨水や生活排水である下水の処理施設で高い濃度の放射性物質を検出。原発から200キロ以上離れた都内でも出ているからだ。
首都大学東京の福士政広教授(放射線安全管理学)は「地表や建物に薄く降り積もった放射性物質が雨で流され、下水処理施設に集約されるのが都市の特徴だ」と説明する。
東京都は6月中旬、下水処理の過程で発生する汚泥を処理する「南部スラッジプラント」(大田区)を報道陣に公開した。
施錠された扉の中に、汚泥の焼却灰に水とセメントを混ぜた「混練(こんねり)灰」が約90トン積まれている。
空間放射線量を測定するため都職員が差し出した線量計は小刻みに振れ、福島県飯舘村の数値に近い毎時2・6〜3・0マイクロシーベルトを指した。放射性セシウムは国の汚泥の埋め立て基準値(8千ベクレル)を上回る1キロ当たり4万4千ベクレルを検出した。 |
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周辺では危機感強く
しかし、混練灰があるれんが棟を出て測定すると、放射線量は一気に毎時0・09マイクロシーベルトにまで落ちた。都は「れんが棟の中の値は高いが周辺への影響はない」。約10センチの壁で閉ざされたれんが棟に閉じ込められているとみている。
れんが棟から離れた煙突周辺では放射線量はさらに下がり、毎時0・04マイクロシーベルトに。国内の自然な状態での空間放射線量は同0・05マイクロシーベルトだから通常と変わらない。
それでも、下水処理施設周辺での危機感は強い。
同じ汚泥処理施設「東部スラッジプラント」がある東京都江東区では、親らが「NO! 放射能 江東こども守る会」を組織。神戸大大学院の山内知也教授(放射線エネルギー応用科学)らと独自に空間放射線量測定を行い、施設が原発事故の“2次汚染源”となっている可能性を挙げた。
都庁で6月、会見した同会は「生活圏内にある施設の問題。公園遊びを控えたり、幼稚園を休ませたりした。親としては原発事故前の状態に戻してこそ安心する」と訴えた。
身近で稼働する施設への不安は広がる。
6月末には家庭ごみを燃やす江戸川清掃工場(東京都江戸川区)の焼却灰からも放射性セシウムを検出。問題視された。
「植木や街路樹の葉はセシウムが付着しやすい。夏を前に切られた枝や刈られた草が清掃工場に集中したのではないか」と福士教授はみる。
その上で、「ダイオキシン対策の高温焼却システムで焼かれ、気化したセシウムは99%以上、つかまえられた」と装置の効能を話すが、不安は増幅している。
埋め立てられる数値
国は放射性物質を含む汚泥やゴミの焼却灰を埋め立ててよいかどうかの基準を示している。
汚泥で埋め立てが可能なのは1キロ当たり8千ベクレル以下。それを超えると、個別の検証が必要となり、10万ベクレル超で「放射線を遮蔽できる施設で保管」となる。
原発のある福島県では事故以降、高濃度の放射性物質が見つかり、5月には、福島市内の下水処理施設の汚泥から1キロ当たり44万ベクレルもの放射性物質が検出された。処分できない汚泥がたまり続け、保管場所が懸念されている。
一方、都の4万4千ベクレルの混練灰は、国の基準では「個別に検討した上で」埋め立てられる数値。都は国と協議し、東京湾の中央防波堤埋立処分場に埋め立てる予定だ。
放射性物質を含んだ汚泥などの処理について、日本原子力研究開発機構の柴田徳思・客員研究員は「早期に土中に埋めるべきだ」という意見だ。「国は地層学的に断層がないかや、地下水への移行がないかを調査し、適切な場所を見つけるべきだ。実験を経て安全性が確認されれば、地域にすべて説明して理解を求めるしかない」と話している。
福島第1原発事故に伴う放射性物質の大気中への放出は収まっているが、身近な汚泥や食品、人体からの検出が続いている。目に見えないだけに数値が独り歩きしがちな中、数字に一喜一憂せずに暮らすにはどうしたらいいのか。
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