一時的な復旧ではなく、抜本的なインフラ整備を
3月11日に発生した東日本大震災は、津波の影響も加わって、かつてない大規模な被害をもたらした。全体の被害状況は、まだ明らかではないが、1995年の阪神大震災のときには、経済的な被害額が10兆円に及んだ。政府は、94年度補正予算で1兆円、95年度予算と補正予算で2兆3000億円の、合計3兆8000億円の復興予算を組んだ。その後の復興経費を入れると、政府が行った復興対策は5年間で5兆円に及んだ。
今回は被害を受けた地域が広い範囲にわたることに加え、被害が甚大なので、阪神大震災を超える規模の対策が必要となる。そのときに留意しておかなければならないのは、しっかりとインフラ回復をしないと、被害が長期に及ぶということだ。
阪神大震災の経験に学べ
内閣府の「県民経済計算」でみると興味深い現象が見られる。阪神大震災直後、95年度の近畿圏の名目成長率は2.4%と、全国の1.5%を上回っている。翌96年度も近畿圏が2.9%と、全国の2.8%を上回った。ところが、97年度に近畿経済の成長率は▲1.3%と大きなマイナスを示し、全国の▲0.0%を大きく下回った。その後2002年度まで、近畿経済の成長率が全国を上回ることはなかった。
このことが何を意味するのか。大きな復興予算の投じられる最初の2年間程度は、復興予算のために経済活動が下支えされる。しかし、そのカンフル剤の効果が消えると、経済は長期低迷に陥るのだ。
例えば、典型は神戸港だ。かつてはコンテナ取扱量世界3位を誇る国際ハブ港だったが、阪神大震災で使用ができなくなって、その後韓国の釜山港などに、ハブ機能を奪われてしまった。最大の原因は、船舶の大型化が要求する水深に神戸港が対応できていなかったからだ。阪神大震災で被災したのをきっかけに、国際ハブ港の条件を満たすように抜本的な改善をすればよかったのに、当面の復旧が優先されてしまったのだ。だから、今回も十分な予算をかけてインフラ整備等を行う必要がある。その総費用は10兆円をはるかに超えるだろう。
復興資金には無記名の無利子国債を充てよ
問題は、その財源をどうするかだ。消費税の引き上げなどは論外だ。1997年の二の舞になってしまう。しかし、国債残高が累増してきていることも確かなので、私は国民新党の提案する無記名の無利子国債というのが一つの解決策になるのではないかと考えている。
私はこれまで、無利子国債には反対してきた。大金持ちの相続税回避に使われてしまうからだ。しかし、このご時世で大金をもっているのは、金持ちしかいない。その金を復興に使うのだ。ただし、私はマイナス金利でよいと思う。
例えば、3年償還の無記名国債は、元本を30%引きで償還、10年償還の場合は20%引き、30年償還の場合は10%引きといった具合だ。償還の時点で誰が持っていても、相続税や所得税の課税なしで資金が受け取れるということにすれば、相続税に悩む大金持ちは、喜んで買うだろう。
もちろん、このやり方は相続税の先食いになるし、下手をすると減免になってしまうかもしれない。しかし、当面の復興資金の確保を優先すべきだろう。
森永卓郎(もりながたくろう)
1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
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