◆なぜ起きるの?
◇高温下、脱水進み体温上昇
梅雨明けから夏の盛りにかけて、熱中症が多発する季節を迎える。厚生労働省によると毎年平均で約350人が死亡している。気象庁が5月末に発表した3カ月予報では、気温は九州から北陸、東海までは平年並みか高めで、東北と北海道は平年並みという。東京電力福島第1原発事故の影響で節電が求められるなか、専門家は「熱中症の症状やメカニズムを理解して予防につなげてほしい」と話す。
◇くらっと目まい
10年8月18日、千葉県旭市。左官業の50代男性が仕事の手を休めると、突然くらっと目まいがして倒れた。この日の天気は曇りで日中の気温約28度、湿度約90%と蒸し暑かった。くらっとしたのはこの夏だけで3〜4回目。市内の国保旭中央病院救急救命科に駆け込んだ。体温は36度7分で脈拍や血圧なども安定していたが、両腕につったような感じと脱水症状があった。熱中症と診断され、生理食塩水を点滴されると症状が消えた。
◇高齢者は要注意
人は暑かったり、運動などで体温が上がると、汗を流すなどして体温を調節する。汗が皮膚から蒸発すると気化熱が奪われて体温を下げることができる。さらに、血液の流れが体内の熱を皮膚の下に運び出し、網目のように広がる毛細血管を流れる間に、外気へ放熱させる。
しかし、発汗による脱水症状が進むと血液が減り、熱を運ぶ機能が下がる。心臓が血流をスムーズにするため心拍数を上げようとしても、高温にさらされて心臓を動かす筋肉に流れる血液も減り、心臓への負担が増す。その結果、体温調節が困難になり体温が上昇。熱中症になりやすくなる。このため、心臓の機能が弱っている心疾患や、血圧を下げる薬を服用している高血圧の人は危険性が高い。高齢者も発汗機能の低下や体内水分量の減少、暑さに対する感受性の悪化などで注意が必要だ。
日本救急医学会「熱中症に関する委員会」委員長の三宅康史医師は「高齢者は熱帯夜や猛暑日が続くと徐々に脱水が進み、持病が悪化したり食欲が落ちたりする。複合的な要因が絡んで熱中症になる」と指摘する。
熱中症の危険性は気温のほか、湿度や日差しの強さなどさまざまな気象条件が影響する。
天気予報の気温は通常、直射日光が当たらない日陰で計測する。このため、「気温30度」と発表されていても、アスファルト上の体感温度はさらに4〜5度高いという。財団法人「気象業務支援センター」の専任主任技師、村山貢司さんは「天気予報の気温が32度を超えると、路上での体感温度は体温を超えているので注意して」と呼び掛ける。また、梅雨明け直後や梅雨の晴れ間など急に暑くなった時や風が弱く湿度が高い時は、体が暑さに慣れていないうえ、汗が蒸発しないので、警戒が必要だという。
◇屋内でも重症化
熱中症は重症度に応じて軽い方から1〜3度に分類される。日本救急医学会の調査によると、10年の熱中症1780症例のうち約4割が1度で、2と3度はそれぞれ約3割だった。しかし年齢別では50歳以上で3度の割合が多く、高齢者ほど重症化の傾向がある。10代は運動中、20〜50代は仕事中、60代以上は日常生活の中で発症するケースが目立ち、日常生活で発症した半数超は屋内にいる時だった。
左官業の男性は「水分摂取を心がけていた」と言う。診察した国保旭中央病院の神田潤医師は「対策をしているつもりでも、水分や塩分などの補給不足で不十分なケースがある。症状が軽いうちに対処すれば重症化せずに済むので、目まいや筋肉痛など熱中症の症状があれば、早めに医療機関を受診して」と話す。次回(7月3日)は、熱中症対策を紹介する。【奥山智己】
分類 |
症状 |
重症度 |
1度 |
目まい・失神・筋肉痛・筋肉のこむら返り・大量の発汗 |
軽 |
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↑ |
2度 |
頭痛・不快感・吐き気・だるさ・虚脱感・意識障害・けいれん |
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↓ |
3度 |
手足の運動障害・高体温 |
重 |