消化を助け 胃すっきり

連日の猛暑で食欲がない。「夏バテ解消!」とばかりにウナギや焼肉を食べて、逆に消化不良になってしまった――。そんな人は、夏が旬の「ぬめり野菜」を試してみてはいかがだろうか。独特のぬめり、ネバネバが、疲れ気味の胃を優しくいたわってくれる。

夏の暑さで胃腸などの働きが弱まると、食べ物を分解する酵素が十分に分泌されなくなる。水分を取りすぎて胃液が薄まってしまうことも多い。するとうまく消化吸収できなくなり、体が一段とだるくなる。

こんなとき「スタミナをつけよう」と意気込んで、たんぱく質を多く含む肉や魚を食べても胃にもたれてかえって消化不良になることが多い。

夏場は葉もの野菜が少なくなるが、夏が旬の野菜もある。オクラ、モロヘイヤ、ツルムラサキ、明日葉(あしたば)。この4つの夏野菜はいずれも独特のネバネバ、ぬめりが持ち味だ。このぬめりが、暑さに疲れた体に効く。

ぬめりは、ムチンと呼ばれる粘性物質が主成分だ。ムチンには、たんぱく質を分解する酵素が含まれているため、肉や魚の消化を助けてくれる。

それだけではない。ぬめり野菜は、微量栄養素であるビタミンやミネラル類の絶好の補給源でもある。

夏場にはよく汗をかくが、ビタミンやミネラル類は汗と一緒に失われやすい。これらの微量栄養素が不足すると、疲れやすい、イライラするといった夏バテ症状が出てくる。そこでぬめり野菜の出番だ。

ぬめり野菜は、食べたもの(糖分や脂肪分)をエネルギーに変えたり、疲労物質を分解したりするのに欠かせないビタミンB1やB2を多く含む。中でもモロヘイヤはビタミンB1やB2をふんだんに含む。古代エジプトの王がスープに入れて食べ、重い病気を治したとの言い伝えがあるために“王様の野菜”と呼ばれるほどだ。

ぬめり野菜には微量成分が多い

カロチン(ビタミンA)

ビタミンC ビタミンE ビタミンB1 ビタミンB2 カルシウム 植物繊維
オクラ
110 11 1.2 0.09 0.09 92 5.0
モロヘイヤ
1700 65 6.6 0.18 0.42 260 5.9
ツルムラサキ
510 41 1.1 0.03 0.07 150 2.2
明日葉
880 41 2.8 0.10 0.24 65 5.6

日本の成人の
日当たり所要量

540〜600 100 8〜10 0.8〜1.1 1.0〜1.2 600〜700 20〜25

(注)100グラム当たり含有量。単位=カロチンはマイクログラム、食物繊維はグラム、他はミリグラム。「5訂食品成分表」「第6次改定日本人の栄養所要量」より抜粋

ぬめり野菜にはビタミンCやE、カロチン(ビタミンA)も多い。これらの栄養素は、活性酸素を消去する抗酸化成分として知られる。活性酸素とは、夏に激しい運動したり強い紫外線を浴びたりすると体内で発生するもので、細胞を傷つけ、生活習慣病やがん、老化の原因となる。

ここでもモロヘイヤは威力を発揮する。モロヘイヤの抗酸化力はすべての野菜の中で1、2を争うほど強いからだ。せんぽ東京高輪病院(東京・港)の足立香代子栄養管理室長は「カロチン含有量も野菜の中で一番多く、野菜には少ないビタミンEもたっぷり含む。健康効果は飛び抜ける」と言う。

ぬめり野菜は夏バテ解消だけでなく、がんを抑制する効果も注目されている。例えば、ぬめりの主成分ムチンは、食べると解毒作用を持つグルクロン酸を作る。この成分は肝臓で発がん物質を捕まえて、便と一緒に排泄(はいせつ)する働きがある。明日葉の歯茎を切ると出てくる黄色い汁にはカルコンと呼ばれる成分が含まれている。明治薬科大学薬学部の奥山徹教授は「カルコンには初期段階のがんを強く抑制する効果がある」と話す。

さて、ぬめり野菜はどうやって食べるのがいいのだろうか。答えは「できるだけ生に近い状態」。ムチンに含まれる酵素は火を通すと壊れてしまうからだ。

ツルムラサキや明日葉はおひたしやあえ物にして食べるとおいしい。栄養価が高いため「青納豆」とも呼ばれるオクラは、細かく刻んでかつお節やしょうゆをかけ、よく粘りを出して食べるのが一般的。みそ汁の具にも合う。

モロヘイヤは、刻んだ葉をよくたたいてぬめりを出してから、沸騰したスープに入れることが多いが、消化を助けるには、やはりなるべく生に近い食べ方がいい。足立室長は「さっとゆがいてからざっくりと切って、かつお節としょうゆをかけて食べると、簡単でおいしいですよ」と薦める。
(『日経ヘルス』編集部)

 

(2001.8.4 日本経済新聞)