ハンバーガーに牛丼、立ち食いそば。ものの5分か10分で食べられるので、忙しい人には重宝だ。ただし、よく噛(か)むことを忘れてしまいがち。よく噛まないと虫歯や肥満、視力低下にもつながるといわれている。どうしたら、噛む回数を増やせるだろうか。 |
噛めば噛むほどに健康にいいことは、次々に明らかになっている。よく噛めば、だ液がたくさん出て、虫歯や歯周病を防げる。だ液にはたんぱく質を分解するリゾチームなど、殺菌作用をもつ酵素が含まれているため、虫歯菌や歯周病菌を減らしてくれるからだ。
よく噛めば刺激が脳に伝わり、脳の血流がよくなって記憶力が高まることもわかった。日本咀嚼(そしゃく)学会の斎藤滋理事長は「よく噛めば、痴ほうや肥満を防げ、免疫力を上げて病気も予防できる」と話す。
ところが、現代人は噛まなくなっている。ハンバーグ、スパゲティ、ラーメンなど軟らかい食品を多く食べるようになったからだ。「現代人は一口当たり10回程度しか噛んでいない。この半世紀で、日本人が1回の食事で噛む回数は半減した」(斎藤理事長)という。
卑弥呼(ひみこ)が食べていたと推測される時代の食事を再現して比べてみると、現代人は6分の1しか噛んでいないという。
この数値を斎藤理事長とともにはじき出した、食文化史研究家の永山久夫さんは「少し前までは保存のために野菜や魚を漬物にしたり、日干しにしたりした。こうした保存食はよく噛まないと食べられない。保存食を食べなくなったことも噛む回数が減った一因」と指摘する。
斎藤理事長は「糖尿病や高血圧、骨粗しょう症といった生活習慣病が増えているのも、よく噛まないことが一因。一口当たり20−30回噛んでほしい」と話す。
とはいえ、ゆっくりと何回も噛むのは大変だ。食べ物自体が軟らかいと、噛みごたえがないからだ。カタクチイワシ、せんべいといった硬い食品を食べると、噛む回数が増えるが、硬いものばかり食べるわけにもいかない。
そこで、歯科医師で料理研究家の田沼敦子・高浜デンタルクリニック(千葉市美浜区)院長は、食材の選び方や調理方法を工夫し、噛む回数が自然と増える方法を提唱している。
例えば、噛みごたえのある食材を使う。代表はたくあん。硬くはないが、のみ込めないので何回も噛む。日常的な食べ物200種類の噛みごたえをランキングしたところ、たくあん、みりん干し、ニンジン、レンコン、セロリといった食材が上位にきた。これらの食材はご飯の4−5倍も噛みごたえがあり、噛む回数も増える。
ハンバーグにレンコンを混ぜる、チャーハンにたくあんをいれるといったように、「トッピング的に使えば、噛みごたえが2、3割上がる」(田沼院長)。
1.
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切り干し大根、カンピョウ、キクラゲ、クラゲなど、乾物や海藻を使う
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2.
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たくわん、みりん干し、ニンジン、レンコン、セロリ、油揚げ、もちなど、噛みごたえのある食材を使う |
3.
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食材は大きく、乱切りにする |
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漬物や空揚げなどにして、食材の水分を減らす |
5.
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刺し身にツマ、ポテトサラダに枝豆のように、噛みごたえの違う食材を組み合わせて食べる |
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市販の総菜に生野菜を加えるなど、薄味にする |
7. |
食べるとき、一口の量を少なめにする |
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乾物や海藻もいい。切り干し大根、カンピョウ、キクラゲ、クラゲなどだ。食物繊維が豊富で、噛む回数が増えるだけでなく、便通も良くしてくれる。乾物や海藻は水で戻すだけで使えるから、調理も簡単だ。
「野菜を大きめに切るだけでも、噛む回数は増える」と田沼院長。同じキュウリでも、じゃばら切りにするより、乱切りにした方が噛む回数が増える。
生野菜より、水分が抜ける漬物にすると、噛む回数が増える。生の白菜に比べて、白菜の漬物の噛みごたえは4倍に高まる。刺し身を食べるときも、ツマと一に食べるだけで、噛む回数はぐっと増える。「食感の違いや味の違いを脳が感じ取ろうとするため、噛む回数が増える」という。
軟らかいものばかり食べている子供に肥満や視力低下が目立つ。噛みごたえランキングを作成した和洋女子大学の柳沢幸江助教授は「子供にも、噛みごたえのあるものを食べさせてほしい」と話している。
(『日経ヘルス』編集部)
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