リケッチア。ツツガムシ病


ツツガムシ病

ツツガムシ病(つつがむしびょう)は、ツツガムシリケッチア(orientia tsutsugamushi)の感染によって引き起こされる、人獣共通感染症のひとつであり、 野ネズミなどに寄生するダニの一群であるツツガムシが媒介する。「新型」と「古典 型」のふたつの型のツツガムシ病に分類される。日本紅斑熱と症状が酷似している。 ツツガムシ病はオーストラリア、アジアにも広く存在する。刺された覚えのない発病 者も多く、症状の初期はインフルエンザ様を示す事もあり、医師がリケッチア感染症 を疑い早期に確定診断することが重要になる。

目次

1 名前の由来
2 分類
2.1 古典型ツツガムシ病
2.2 新型ツツガムシ病
3 媒介者
4 臨床所見
4.1 血清型
4.2 症状
4.3 検査
4.4 診断
4.5 予防
4.6 治療
5 関連法規
6 関連項目
7 脚注

名前の由来

手紙などで、相手の安否などを確認する為の常套句として使われる『つつがなくお過 ごしでしょうか…』の『つつがなく』とは、ツツガムシに刺されずお元気でしょうか という意味から来ているとする説が広く信じられているが、これは誤りである。

もともと「恙」(つつが)は病気や災難という意味であり、そうでない状態として 「つつがない」という慣用句ができた。これと別に正体不明の虫さされのあとに発症 する原因不明の致死的な病気があり、それは「恙虫」(つつがむし)という妖怪に刺 されて発症すると信じられていた。これをツツガムシ病と呼んだ訳だが、後に微細な ダニの一種に媒介される感染症であることが判明し、そこからこのダニをツツガムシ と命名したものである。

分類
古典型ツツガムシ病
ツツガムシ病は、古くは山形県・秋田県・新潟県などの地域で夏季に河川敷(信濃川・ 阿賀野川・最上川等)で感染する風土病で、死に至る病として恐れられていた。これ は、リケッチアを持つアカツツガムシ(Leptotrombidium akamusi)というダニに吸 着されて発症する。春〜夏に多い。大河津分水路建設工事において多数の作業従事者 が古典的ツツガムシ病に倒れている。

新型ツツガムシ病
第二次世界大戦の後は古典型はほとんど見られなくなり、かわってタテツツガムシ (L.scutellare)やフトゲツツガムシ(L.pallidum)というダニが媒介して発症する ものが出現した。北海道を除く全国で発生が見られる。古典型とは異なり、秋〜初冬 に発生が見られる。2つの型で発生時期が違うのは、それぞれのダニの活動時期の違 いによる。

媒介者
アカツツガムシ(Leptotrombidium akamusi)、タテツツガムシ(L.scutellare)、 フトゲツツガムシ(L.pallidum)などがあり、それぞれのダニの0.1〜3%が菌を持っ ている(有毒ダニ)。ツツガムシは土壌昆虫の卵などを捕食する捕食性のダニである が、卵から孵化した直後の第1期の幼生である幼虫のみが、生涯で1度だけネズミなど の温血動物の皮膚に吸着し、組織液や崩壊組織などを摂取する(血液は吸わない)。 吸着を受けたネズミやヒトなどの動物はこの吸着時にリケッチアに感染する。吸着時 間は1〜2日で、ダニから動物への菌の移行にはおよそ6時間以上が必要である。菌は ダニからダニへと経卵感染により受け継がれ、菌を持たないダニ(無毒ダニ)が感染 動物に吸着しても菌を獲得できず、有毒ダニにならない。

臨床所見
血清型
ツツガムシリケッチアには血清型が存在し、Kato、Karp、Gilliamの3種類は標準型と よばれ、その他にもKuroki、kawasakiなど新しい型も報告されている。

a.. Kato型は、東北地方に分布するアカツツガムシが媒介する。古典型ツツガムシ である。
b.. Karp型・Gilliam型は、概ね東北から九州北部までに分布する。フトゲツツガ ムシが媒介する。新型ツツガムシである。
c.. Kuroki、kawasaki型は、九州に多く関東にも分布する。タテツツガムシが媒介 する。新型ツツガムシである。
症状
ツツガムシに刺されてから5-14日の潜伏期ののち、39度以上の高熱とともに発症し、 2日目ころから体幹部を中心とした全身に、2-5mmの大きさの紅斑・丘疹状の発疹が出 現し、5日目ころに消退する。筋肉痛、目の充血が見られることもある。 皮膚には特 徴的なダニの刺し口が見られる。刺し口は発赤と軽度の腫脹を呈し、水泡から潰瘍化 してかさぶたを形成する。発熱・発疹・刺し口は主要3兆候とよばれ90%程度の患者に みられる。倦怠感、頭痛、刺し口近くのリンパ節あるいは全身のリンパ節の腫脹も多 く見られる症状である。重症例では、播種性血管内凝固症候群や、多臓器不全で死亡 することもある。

検査
a.. 一般検査ではCRP強陽性、肝酵素の上昇がほとんどの例に見られる。通常の細 菌感染と比較して白血球の上昇が少ないのも特徴といえる。
b.. 血清型を血液検査で調べる。間接蛍光抗体法(IFA)または間接免疫ペルオキ シダーゼ(IPA)という方法を使って測定が可能である。Kato型・Karp型・Gilliam型 は保険適応だが、Kuroki型・kawasaki型は保険が効かず研究機関等でしか行えない。
診断
a.. 診断のポイントは、刺し口(esher)とツツガムシに対する血清抗体の測定で ある。ただし、刺し口は腹部・背部に多く発見しにくい。検査所見は日本紅斑熱のも のと類似するため、鑑別が必要。
予防
予防ワクチンは無いため、ダニに刺されないことが唯一の予防法である。以下に例を 書く。

1.. 汚染地域に発生時期に入らない。
2.. 長袖・長ズボン・長靴・手袋を着用し、肌の露出を減らす。
3.. 皮膚の露出部位には、ダニ忌避剤を外用する。
4.. 脱いだ上着やタオルは、不要意に地面や草の上に置かない。
5.. 草の上に座ったり、寝転んだりしない。
6.. 帰宅後は入浴し、脱いだ衣類はすぐに洗濯する。
a.. 誤ったダニの駆除方法として、「アルコールや除光液を塗る」、「ライター、 マッチの火を近づける」などの方法が言われているが効果はない。症状の原因となる 唾液を傷口周辺に広げることになる。[1]
治療
治療にはテトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択。その他、クロラムフェニコールも 使用される。早期に十分量・必要期間服用しないと悪化するケースがある。ペニシリ ンをはじめとするβ-ラクタム系抗生物質は無効である

関連法規
感染症法の4類感染症に指定されている。

関連項目
a.. 感染症
b.. 伝染病
c.. リケッチア
d.. 皮膚科学
e.. 発熱と発疹を起こす病気の一覧
f.. 日本紅斑熱
脚注
ダニによるかみ傷 メルクマニュアル家庭版

 

2011.05.18 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』