今夏、せきや発熱といった症状に苦しみながら「ただの夏風邪」と済ませてしまった人はいないだろうか。そんな人は、1年前、2年前の夏を思い出してほしい。もし、同様の症状が毎年のように出ていたら「夏型過敏性肺炎」というアレルギー性疾患かもしれない。原因は夏場に家屋の中などで繁殖するカビ。長年放っておくと、じわじわと肺の機能が悪化することもある。専門医は「症状が長引くなど気になることがあれば、一度医療機関を受診した方がいい」と呼び掛ける。
▽息苦しさ
夏型過敏性肺炎の原因として知られているのがトリコスポロンというカビの一種。家の中のありふれたカビで、梅雨時から夏、さらに秋口にかけて、主に風呂場や台所など湿気の多い水回りで繁殖する。室内に漂う胞子に繰り返しさらされ、吸い込むことでアレルギーが引き起こされ、せきや熱が出る。涼しくなるにつれてカビが減ると、症状も収まる。
「毎年、暑くなると『家に帰ると苦しくなる』という人が現れる。夏風邪だろうと放置していると、やがて肺の組織が線維化してしまう肺線維症になり、呼吸不全に陥ることもある」。この病気に詳しい御茶ノ水呼吸ケアクリニック(東京)の村田朗(むらた・あきら)院長は警告する。
村田さんによると、夏風邪との症状の違いは息苦しさ。さらに(1)何年にもわたって夏になると症状が出る(2)外出したり、自宅の中でも風呂場などの特定の場所を離れたりすると症状が収まる―といった場合に夏型過敏性肺炎が疑われる。
▽職場でも
その場合は、患者に家の中で6〜8時間ごとに居場所を変えてもらい、移動の前後で症状が出るか、改善するかを観察する。症状がひどいときには、肺のエックス線撮影や気管支鏡検査、血液検査などで詳しく調べる。
症状が軽ければ、掃除を徹底してカビを減らすか、カビの繁殖場所に近づかなければ問題ない。だが、中には適切な対応ができず、夏の間、肺の炎症を抑えるステロイド薬を飲み続けなければならないケースもある。
8年ほど前に村田さんのクリニックを訪れた飲食業の50代女性は、6月ごろになるとせきや熱が出て息苦しくなることが続いた。2、3年は風邪薬でしのいでいたが、「何かおかしい」と受診した。エックス線で撮影すると、肺の組織に「肉芽」という小さな塊ができていることを示す白い粒々が写っていた。
女性の症状は、水を扱うことが多い職場に原因があると考えられたが、職場を変わるまでの3年間、夏場になると薬での治療を続けた。職場を変わると症状は消えたが、その間、エックス線写真で見る肺の状態は徐々に悪化していたという。
▽9月以降も
高温多湿の日本の夏はカビの繁殖に好都合だ。特に今年の夏は、節電でエアコンの使用を控える人が多く、室内はカビが繁殖しやすい環境だった可能性がある。
「夏型過敏性肺炎は、長期間繰り返しカビにされされることが発症につながる。確かにカビは生育しやすかったかもしれないが、今年のことだけを過剰に心配する必要はない」と村田さん。
一方で「カビは寒くなるまで家の中で生きている。残暑が続く9月以降も油断しないでほしい。特に、毎年繰り返している人は要注意だ」と話している。(共同)