内部被ばくを考える Dr.中川のがんの時代を暮らす/10
「半減期」の長い放射性セシウムは、外部被ばくと内部被ばくの「主犯」になります。今年3月12〜15日の数日、東京電力福島第1原発から大気中に放出されたセシウムは、風に乗って各地に流れていって雨に溶けて降り、土などにしみ込みました。セシウムは、カリウムに近い「アルカリ金属」と呼ばれる物質で、水に溶けるとプラスの電荷を持つイオンになります。土はマイナスの電気を持っているため、セシウムは土の表面に吸着します。家の周りでは、雨どいの下の土の放射能が高くなりやすくなっています。
セシウムからは、透過性の高いガンマ線が放射され、全身にほぼ均等な外部被ばくが起きます。なお、このガンマ線は空気中では100メートル近く届きますので、家の周りを「除染」しただけではすまないことがやっかいです。長袖を着ても意味はありません。
セシウムがキノコなどの野菜に吸収されれば、食物を通した内部被ばくにつながります。肉牛からセシウムが検出されたのは、牛のエサである宮城や福島の「稲わら」に、セシウム入りの雨が付着したまま全国に出荷されたためです。セシウムの半減期が長いため、3月の雨の影響が残ってしまったわけです。
ところで、牛肉をはじめ食物による内部被ばくを恐れる人が多いのですが、内部被ばくには誤解が見受けられます。セシウムも体内に取り込まれると、カリウムと同様、全身の細胞にほぼ均等に分布します。このことは、福島県内で野生化し、安楽死となった牛などの解析からも確認されています。
体内にほぼ一様に分布したセシウムから出る放射線で被ばくしますから、セシウムによる内部被ばくは、どこかの臓器に集まるのではなく、外部被ばくとほぼ同様の「全身均等被ばく」になります。
そもそも、シーベルトという単位は、放射線の人体への影響を示すものです。一般住民への健康影響は、発がんリスクの上昇だけですから、シーベルトは、がんの危険性を示す指標といってもよいでしょう。国際放射線防護委員会(ICRP)によると、同じ1ミリシーベルトの被ばくをしたとすれば、外部被ばくであろうと内部被ばくであろうと健康への影響は同じなのです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)