卵巣にある「卵胞」から出る女性ホルモンが、脳神経にある遺伝子のタンパク質を変化させて排卵を促している仕組みを、名古屋大の束村博子(つかむら・ひろこ)准教授(神経内分泌学)らの研究グループがマウスを使った実験で明らかにし、米科学アカデミー紀要電子版に9日発表した。
卵胞が発達しても排卵が起きない「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」は不妊症の主な疾病の一つとされ、排卵を促すホルモン剤などで治療されているが、効かなくなる場合があるという。束村准教授は「脳神経を狙ってホルモンを調節することで、人の不妊や家畜の繁殖障害を根本的に治療する技術につながる」と話している。
卵胞から分泌される「エストロゲン」という女性ホルモンが、脳の「キスペプチンニューロン」という神経細胞を活性化。排卵を促すと同時に、卵胞が十分に成長するまで排卵を制御していることは知られていたが、詳しい仕組みが分かっていなかった。
グループは、キスペプチンニューロンの遺伝子を収納しているタンパク質に着目。排卵間近のマウスと、卵胞が発育中のマウスのそれぞれで、タンパク質が変化し、この遺伝子が活性化しているか調べた。
排卵間近のマウスは、キスペプチンニューロン前部の遺伝子が働くようにタンパク質が変化していたが、卵胞が発育中のマウスは、このニューロン後部の遺伝子が働くようになっていた。この変化がエストロゲンの働きによることも確かめた。