スマホ依存 考え直そう 米国で広がる「デトックス」 専門外来で治療も
スマートフォン(多機能携帯電話、スマホ)の急速な普及で、ネット空間と常につながっている人が増えている。便利なツールだけに、ついついのめり込み、手放せなくなってしまう。夏休みを機にデジタル機器をいったん遠ざけ、付き合い方を考え直してみては。【丹野恒一】
「ツイッターのフォロワー(読者)の増減に一喜一憂するのに疲れた。うそを書いてまで維持する価値なんてない」。東京都内で働くウェブプランナーの女性(31)は昨年11月、重宝していたスマホを、意を決して解約した。
短文投稿サイトのツイッターは09年ごろに始めた。転職したばかりで心の支えが欲しかった。リアルタイムで他人とつながっていると、安心感を持てたという。
業界の内実や愚痴を「ズバズバ書いた」のが受け、フォロワーがぐんぐん増えて自信になった。仕事中でも書き込むようになり、いつの間にか投稿は1日100回に。一方で、フォロワーが減ると「何がいけなかったのか。自分はもう人気がないのか」とひどく気になった。
「『家にいると暑いな』とか『洗濯物を干さなくちゃ』のような、日常のツイートも格好悪くてできなくなった」。等身大の自分と乖離(かいり)し、行ってもいない人気店の感想までツイートしてしまった。嫌気が差したのが、スマホ解約の理由だ。
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ネットのマイナス面が意識され始めた米国ではデジタル機器を生活から追い出し、心の健康を取り戻そうという動きが広がっている。毒素を体から排出する健康法になぞらえ、「デジタルデトックス」と呼ばれる。
一部のリゾートホテルでは、チェックイン時にパソコンなどをフロントに預けると、宿泊代が割引に。日常会話でも「今からデジタルデトックスに入るので、連絡がつきにくくなります」のように使われている。
ブランディングプロデュース会社「レバレッジ」(東京都港区)の只石昌幸社長(36)も昨年から、デジタルデトックスを習慣にしている。午前中は携帯電話を持たず、浮かんだアイデアを書く大学ノートとスケジュール帳、ペンだけを持って社外で過ごす。
6年前に起業した頃は「携帯電話が通じないのが怖く、地下鉄にも乗らなかった」という。夫婦でフランス料理を食べに行っても「テーブルでノートパソコンを開いていた」と振り返る。
現在もネットを使ったコミュニケーションを拒否しているわけではなく、交流サイトのフェイスブックとツイッターには毎日書き、メルマガも週2回発行する。ただし、費やす時間は各5〜20分程度。
「ネットに頼りきっていた頃は、無意識のうちに他人のアイデアを探していた。遮断することで、自分自身にアクセスできるようになった。勝負は感性だと信じ、磨いています」
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スマホとにらめっこしている人が、街中にもあふれている。時間を浪費した上に、身近な家族や仲間を放置しかねない。ネット上のやりとりに振り回され、精神的に不安定になることもある。
国立病院機構「久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)は昨年7月、全国で初めて「ネット依存治療研究部門」を設け、専門外来をスタートした。三原聡子・臨床心理士は「国際的にはまだ精神疾患と認められていないが、アルコールやギャンブルの依存症とかなり近い」と指摘。「職場でスマホをいじっても、一見して業務なのか判断できない。深刻なレベルになるまで表面化しにくい」と警告する。
企業内のメンタルヘルスを支援する「ピースマインド・イープ」(東京都中央区)は、スマホを中心にした「ネット依存」の指標を独自に設けている=別表。依存症が疑われる場合は▽1日の使用を1〜2時間以内などと決める▽子どもの使用時間を制限する保護者向けタイマー機能を活用する▽不必要な「お気に入り」は削除する――などを勧める。ネットと関係ない趣味を持つことも重要という。
副社長の市川佳居さんは「スマホやネットをばっさり絶つのは難しい。成功のカギは、小さなステップを踏みながら減らしていくことです」とアドバイスする。
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◇「スマホ依存度」チェック項目(ピースマインド・イープ作成)
<1>食事中にスマホを見ていることが多い
<2>電波が届かない(届きにくい)所には行きたくない
<3>家族や目の前の人と会話せず、スマホのチェックに没頭する
<4>着信していないにもかかわらず、着信音が聞こえた気がする
<5>フェイスブックなどに書き込むネタを作るために行動することがある
<6>もしソーシャル・ネットワーキング・サービスがなかったら、人間関係がなくなると感じる
<7>会議や宴会中もフェイスブックやツイッターが気になり、スマホを見てしまう
<8>時間の浪費になるのでやめようと思うが、やめられない
※(1)〜(7)のうち五つ以上当てはまれば「要注意」。かつ(8)もならば「専門的な対処が必要」。