コツコツ健老塾:病名・加齢黄斑変性 治療・眼科
◇異常な血管でゆがみや暗点
視野の中心部がゆがんだり、暗くなったりする「加齢黄斑(おうはん)変性」は、98年に全国で37万人だった推定患者数(50歳以上)が07年には69万人とほぼ倍増した。増加の原因は高齢化だ。この疾患を含む「黄斑変性症」は、視覚障害者の原因疾患の4位になっている。
◇網膜下組織が老化
目をカメラに例えると、網膜はフィルムに相当する。網膜の中で物を見るために重要なのが、「中心窩(か)」から半径約3ミリの範囲の「黄斑」だ。中心窩には、光を電気信号に変える視細胞が密集しており、他の部分よりよく見える。加齢黄斑変性では、このよく見える部分に異常が起こる。
異常の原因は、網膜の下にある組織の異常な老化だ。年齢を重ねると、透明な網膜の下にある網膜色素上皮の下に老廃物がたまり、炎症が起こる。炎症によって網膜色素上皮細胞から産生された血管内皮増殖因子(VEGF)は、網膜色素上皮の下にある脈絡膜血管に作用して異常な血管(新生血管)を発生させる。
新生血管は通常の血管に比べてもろいため、出血や血漿(けっしょう)の漏出を起こしやすく、漏れ出した血漿成分がたまると視野がゆがみ(変視症)、出血などが加わると真ん中が見えなくなる「中心暗点」が生じる。これが「滲出(しんしゅつ)型」と呼ばれる加齢黄斑変性だ。他に、網膜が萎縮する「萎縮(いしゅく)型」というタイプもあるが、日本人には比較的少ない。
◇滲出型、治療法登場
今のところ、萎縮型には治療法がない。一方、病状の進行が早く急速に視力が落ちる滲出型は、近年治療法が登場した。中心窩の新生血管に対する治療法として04年に始まった「光線力学療法」は、光に反応する薬剤を腕の血管から入れて新生血管に集め、レーザーによる光化学反応で新生血管を詰まらせる。さらに08年以降、VEGFを抑える薬が相次いで承認された。いずれも1カ月〜6週間の間隔で複数回、目の中に注射する治療薬で、低下した視力を改善する効果がある。
また今年11月には、2カ月ごとの投与で有効性が確認された新薬も登場する。
早期に治療するほど効果は高いが、視力の回復にも限界があるという。湯澤美都子・日本大医学部教授(眼科)は「医師が治療効果を感じていても、患者は視覚が元に戻らず不満を感じているケースが多い」と話す。こうした視力が低下した患者には「ロービジョンケア」と呼ばれる、視覚用のリハビリテーションがある。医師、視能訓練士の指導の下、傷んだ黄斑以外の正常な網膜の部分を使って物を見るようにする訓練で、12年度より保険も適用された。
将来的には、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用した治療への期待も大きい。13年度からの臨床研究を計画している理化学研究所発生・再生科学総合研究センターによると、従来の治療で病状が改善しない患者を対象に、患者の皮膚細胞から作製した網膜色素上皮細胞を移植し、安全性や効果を調べるという。
◇予防には禁煙を
加齢黄斑変性の予防で、重要なのは禁煙だ。湯澤教授は「喫煙によって血液中の抗酸化物質が壊されたり、血管が収縮したりすることが発症に関係していると考えられる。日本で女性より男性の患者が多いのも、男性に喫煙者が多いことと関係していると思う」と話す。
サプリメントではビタミンA、C、Eと亜鉛の摂取が発症を抑えることが報告されている。湯澤教授は「米国の研究で毎日3回5年間摂取したら、加齢黄斑変性になりにくかった、という結果が出た。ただし効果が確認されたのは発症前。発症した人には効果はない」と補足する。また、青魚に含まれるオメガ3脂肪酸や緑黄色野菜に含まれるルテインが効果的という指摘もあるが、これらについては信頼性の高い研究成果がまだ出ていないという。
最近は、パソコンなどの電子機器の画面から出る青色光(ブルーライト)が加齢黄斑変性の発症に関与しているという指摘もある。湯澤教授は「太陽光の中の青色光は黄斑に悪影響がある。しかし電子機器から出るブルーライトは太陽光に比べて非常に弱く、まだ仮説の段階」と話している。【MMJ編集部・高野聡】