糖尿病の改善はオーラルケア?
 

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 ◇インスリン導入、早期から

 膵臓(すいぞう)から分泌され、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)を下げる効果があるホルモン「インスリン」が適切に機能せず、血糖値が慢性的に高くなる糖尿病。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、患者数は890万人、患者予備群は1320万人と推計される。60代以上では3人に1人が患者または予備群で、このうち90%以上は、生活習慣が原因の2型糖尿病だ。診断された後は、生活習慣の改善や服薬で血糖値を下げる治療を行う。以前は飲み薬の効果が低下してから始めていたインスリン導入を、早期に始める治療が広がっている。

 ◇1回で24時間作用

 糖尿病に自覚症状はない。血液検査で(1)空腹時血糖値が1デシリットルあたり126ミリグラム以上(2)ブドウ糖負荷試験2時間値同200ミリグラム以上(3)随時血糖値同200ミリグラム以上(4)HbA1c(ヘモグロビンA1c)6・5%以上――のいずれかに該当したら「糖尿病型」と判定。後日の検査でも再度糖尿病型と判定されるなどしたら、糖尿病と診断される。高血糖が続くと、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を起こしやすくなったり、細い血管が傷ついて網膜症、腎症、神経障害などの合併症を起こしたりする。

 健康な人の場合、血糖値は、常に少しずつ分泌されているインスリン(基礎分泌)と食事後に血糖値が上がると分泌されるインスリン(追加分泌)によって、一定の範囲に保たれている。インスリン注射によって、体内のインスリン分泌状況を再現するのがインスリン療法だ。

 治療で用いられるインスリン製剤は、患者が自分で皮下に注射する。1990年代にヒトのインスリンに構造を似せた「インスリンアナログ製剤」が登場。体内での作用時間を速くしたり、持続したりできるようになった。03年に登場したインスリングラルギンは、「持効(じこう)型」と呼ばれ、1日1回の注射で、ピークを作らずに24時間作用が持続する。これらの製剤によって、「基礎分泌」の再現がより生体内に近づいた。持効型と飲み薬を組み合わせた治療法(BOT療法)も登場している。

 ◇分泌機能低下せず

 糖尿病治療を、飲み薬で始めた群と、インスリンで始めた群を比べたところ、飲み薬の群は治療から1年後に膵臓のインスリン分泌能が低下したが、インスリンの群は機能が保たれていたという。また昨年の米国の学会では、「インスリングラルギンを使っても心血管疾患やがんのリスクが増えない」とする研究結果が発表された。

 東京医科大の小田原雅人教授は「09年に欧州で、インスリングラルギンを使うとがんが増える、という研究結果が発表され、医師に懸念が広がっていた。今回、大規模、長期間にわたった信頼性の高い研究で不安は払拭(ふっしょく)された」と話す。

 ◇療養状態が改善

半年ごとのオーラルケアのチェックアップを受けて、毎日のケアが変わると、糖尿症状も軽くなってくる。1年もするとインシュリンが要らなくなるほど改善する。


 しかし、インスリン導入に対する抵抗感も根強い。主治医と患者を対象に、05年に実施された意識調査によると、インスリン治療に対する患者の気持ちは「注射は怖い」「注射は面倒」に加え、「一生ずっと打つのがいや」などの回答が多くを占めた。また医師側に、実際に患者にインスリン治療を開始した時点のHbA1cの数値を尋ねると、平均9・2%で、悪化するまでインスリン治療を勧めていなかった。

 一方で、実際に治療を開始した患者の感想では、「より早く始めれば良かった」がほぼ半数を占めている。小田原教授は「夜何度もトイレに行かなくてすむなど、療養状態が改善する効果が大きい。医師、患者双方が意識を変えることが必要だ」と指摘する。

 インスリンデグルデクという1日1回投与の別の新しいアナログ製剤も近く国内に登場する予定だ。日本糖尿病学会理事長の門脇孝・東大付属病院長は「どういうタイプの糖尿病患者にそれぞれの製剤が適しているかは、今後のエビデンスの蓄積の中で研究していく必要がある」と話している。【MMJ編集部・高野聡】

2013年1月28日 提供:毎日新聞社