EBMに基づく医薬品情報
NPOJIP理事長・TIP誌 副編集長・医師 浜 六郎

かぜ関連脳症の重大な原因

(1)解熱剤、(2)けいれん誘発薬剤、
(3)は「低血糖誘発薬剤」−抗ヒスタミン剤と去痰剤か

今回は、一般的エビデンスレベルとしては高くないケースシリーズではあるが、内容的に重要と思われる例を取り上げる。

日本のインフルエンザ脳症の多くに、NSAIDS解熱剤が関与していることは、これまでに何度も指摘してきた。国でもようやく認めるようになってきた。また、テオフィリンなど痙攣誘発薬剤の重要性についても、TIP誌や本紙でも取り上げた。

最近相談を受けた中に、軽い喘息用気管支炎後の重症脳症後遺症例の原因として、低血糖(血糖値23?/dl)が関係し、その原因として薬剤を考えざるを得ない症例があった。

同じ病院で、昏睡や嘔吐後傾眠状態となった例など、合計4人の低血糖を起こした小児の全例に、抗ヒスタミン剤と去痰剤(カルボシステイン、商品名ムコダイン)が処方されていた。

この例を中心に、TIP誌の2001年11月号、「薬のチェックは命のチェック」誌第5号では、症例とともに、血糖と脳症との関連に考察を加えた。その概略について紹介する。

症例は、1999年7月現在、2歳7カ月の女児。37.4度の発熱などかぜ症状に、軽い喘鳴を伴っていた(喘息様気管支炎)。吸入とテオドール、ムコダイン、ポララミン、ブリカニール、アスベリン、セフスパン細粒などが処方された。

4日目の早朝発熱している様子はなかったが、いつまでも起きてこないので、母親がみると、はじめ両上肢まもなく全身に強直性痙攣を生じた。受診時の体温は39.5度と上昇していた。酸素吸入やジアゼパム静注で痙攣は消失せず、検査の結果、血糖値が23?/dLであった。ぶどう糖の静注で痙攣は消失した。その後転院したが、転院後に測定した血糖値は正常値であり、その後低血糖は生じていない。独歩は不自由ながらできるが、会話は不能な重度の障害を残した。

テオフィリンの濃度は3.5_/dLと低い濃度であったことから、テオフィリンが原因とは考えられない。痙攣後の血糖値が23?/dLであったことから、血糖値の最低値はさらに低かったと推定され、痙攣の原因は低血糖と判断できる。また、発熱の原因は低血糖の結果生じた痙攣のためと考えられる。

低血糖の原因はおそらく抗ヒスタミン剤とムコダイン
小児の低血糖の原因として、「ケトン性低血糖症」がある。しかし、その原因は不明である。疾患が原因となる二次的な低血糖であれば、一過性ということはないはずだが、本症例は低血糖のエピソードは1回きりである。このような場合は薬剤を疑うべきである。

このため、処方されている薬剤と低血糖とを組み合わせて文献検索したところ、抗ヒスタミン剤とムコダイン(カルボシステイン=SH化合物)、テオフィリンが可能性として挙がってきた。さらに種々の文献を収集して考察し、ほぼ抗ヒスタミン剤とムコダインに絞られてきた。

血糖値を下げる作用のある生理活性物質はインスリンのみである。しかし、血糖値が低下した時にインスリンに拮抗して、アドレナリンをはじめステロイド剤や成長ホルモンなど種々の物質の血糖値を上昇させる。中でも、アドレナリンの作用は重量である。

ヒスタミンそのものが血糖を上昇させる作用があるが、抗ヒスタミン剤はフェノチアジン剤(神経遮断剤)などと同様、アドレナリンのα作用を遮断する性質がある。したがって、早朝空腹時に血糖値が低下してきたときに抗ヒスタミン剤が使用されていると、アドレナリンの血糖上昇作用に拮抗して血糖値が上昇せず、低血糖を生じる可能性がある。一方、SH化合物はインスリン様作用があるとされており、両者があいまって、低血糖を来した可能性がある。

なお、厚生(労働)省の調査で報告され、「インフルエンザ脳症」とされた子どもにも、抗ヒスタミン剤やムコダインが高頻度に使用されていた。

インフルエンザ脳症とされている例で、非ステロイド抗炎症剤が使用されていない例、解熱剤としてアセノフェンだけが使用されている例では、抗ヒスタミン剤やムコダインなど、低血糖が生じた結果として痙攣を生じて脳症を起こしていないかどうか、検討を要する。そのための疫学調査を実施する必要がある。

(2001.1.15 全国保医新聞)