そのほくろ、大丈夫? 悪性度高いメラノーマ 
画期的診断法が普及

 

がんの中でも特に悪性度が高いことで知られる皮膚がんの一種、メラノーマ(悪性黒色腫)。高齢化や日光の紫外線にさらされやすい生活スタイルを背景に、患者数や死亡者数が近年増加傾向にある。ほくろやシミとの鑑別が難しく診断が遅れがちだが、この5〜6年の間に「ダーモスコピー」と呼ばれる画期的な検査方法が普及し、早期発見が可能になってきた。

 ▽3割が足の裏

 埼玉県に住むY子さん(82)は数年前、左足の裏に薄茶色のシミがあるのに気付いた。知人から「足の裏のほくろは怖いがんの可能性がある」と言われて心配になり、昨年、自宅近くの皮膚科を受診した。大きさは7ミリで形がややいびつ。医師がダーモスコープという特殊な拡大鏡で観察すると、色素の分布がメラノーマに特徴的なパターンであることが判明した。

 幸い早期だったため、病変と周囲の皮膚を小さく切除しただけで完治した。医師は「ダーモスコピーでなければ、こんな早期のメラノーマは見逃されていた可能性が高い」と説明したという。

 メラノーマは、肌の色に関係するメラニン色素を作る細胞「メラノサイト」ががん化する。ごく小さいうちからリンパ管や血管を通って全身どこにでも転移する極めてたちの悪いがんだ。日本人では足の裏や手のひら、手足の爪に生じるタイプが最も多く、特に足の裏は約30%を占めている。

 ▽機械的刺激

 皮膚がんに詳しい斎田俊明(さいだ・としあき)・信州大名誉教授によると、日本人の罹患(りかん)率は人口10万人当たり2人程度。年間に推定1500〜2千人の患者が発生している。太陽の強い紫外線が重要な危険因子とされるが、足の裏や手のひら、爪については、けがや、日常の機械的刺激の影響が考えられる。

 患者の救命には転移前の発見が不可欠。米国対がん協会の診断基準は、病変が(1)非対称性(2)境界が不規則(3)色の濃淡が一様でない(4)直径が6ミリ以上(5)大きさや形状、色調が変化する―といった特徴を示す場合はメラノーマを疑うとしているが「早期の病変は、ほくろやシミとの区別が難しい。見た目が似た良性腫瘍も多く、しばしば誤診される」と斎田さんは話す。

 そこで注目されるのがダーモスコピー。1987年にオーストリアで考案され、日本では斎田さんがいち早く導入した。

 ▽パターンに特徴

 この検査では、病変のある皮膚表面に超音波診断で使われるゼリーなどを塗り、さらにガラス板を当てる。そこに強い光を照射しながらレンズで病変を10〜20倍に拡大して観察すると、肉眼では見えない皮膚内部の色素の分布が見えてくる。

 ゼリーやガラス板を使うのは、皮膚表層での光の乱反射を防ぐため。「箱眼鏡」を水面に押し当ててのぞくと海や川の中がよく見えるのと同じ理屈だ。偏光フィルターを組み込み、ゼリーを用いないタイプもある。

 手足の皮膚表面には指紋や掌紋、足紋がある。斎田さんらはダーモスコピーで観察すると、通常のほくろでは紋の「溝」に一致してみられる色素沈着が、メラノーマでは「丘」の部分にみられるなど、特徴的パターンがあることを突き止めた。

 「パターンを照合すれば、ごく早期の病変も診断できる。以前は診断に迷うと組織を採取して調べていたが、患者さんにとって苦痛で、むだな検査を減らすこともできる」と斎田さん。2006年には保険も適用され、普及に弾みがついた。

 メラノーマに従来の抗がん剤は効かない。転移すればもはや切除もかなわず、なすすべが無かったが、米国で11年、延命効果のある二つの分子標的薬が承認された。診断と薬の進歩で、メラノーマの治療が大きく変わりつつある。(共同=赤坂達也)

2013年3月26日 提供:共同通信社