阿木 私は一時期フラメンコにのめり込んでいて、1週間に10日練習していたほどです。ところがある日、ひざを痛めてしまい4年たった今でも良くなっていません。フラメンコは、背筋を伸ばし背中を反った姿勢で踊ります。間違った背骨の使い方をしていたのでしょうね。
太田 無理な姿勢や同じ姿勢を続けるのは、骨のために良くありません。練習のし過ぎも問題ですね。運動は大切ですが、週休2日くらいが適当です。心臓や肺に負担がかかりすぎる運動も良くありません。どういう運動が体に良いかはまだ分かっていませんが、歩くことが一番無難だと言われています。
阿木 日本は欧米よりも寝たきりの人が多いと聞きます。どういう理由からでしょう。
太田 骨にも人種的な違いがあり、日本人に限らずアジア系の人種は骨粗しょう症の人が多い。それが日本人に寝たきりが多い原因の1つです。骨折する箇所にも違いが生じ、日本人は背骨の骨折が多い。日本の農村を訪れる外国人は、腰の曲がったおばあちゃんが多いことにびっくりします。逆に日本人は足の付け根にある骨が短いので、その部分の骨折は少ない。
阿木 人間がもともと4つ足だったことを考えると、立っていること事体に無理があるような気がしますが。
太田 その通りです。ある恐竜は水の中で生活していたのに、陸上に上がり2本足で歩くようになりました。それで足の付け根に2千キログラムの体重がのしかかり、骨の骨折が原因で絶滅したと言われています。
阿木 骨が原因で死ぬことはないと思っていましたが、人間の土台を作っている骨が大切だと言うことがよく分かりました。父が亡くなり焼き場で骨になった時「すごく立派な骨ですね」と褒めていただきました。死んでしまっても骨だけは残りますものね。それなのに私たちは日ごろ、骨に対する意識が低すぎますよね。
太田 骨はカルシウムの貯蔵庫で、体内の99%の量を蓄えています。冷蔵庫が大きいといろいろな献立を考えられるのと同じで、骨量が多いと体全体に供給するカルシウムの量も多く、体全体にゆとりが生まれるのです。だから骨量が多く骨が丈夫な人の方が、健康を保ちやすい。
阿木 私も寝たきりへの恐怖があり、カルシウムを補うためにサプリメントを利用しています。カルシウムを取りすぎると弊害がありますか。
太田 確かに極度のカルシウム過剰は、尿路結石を引き起こしたりしますが、サプリメントなど補助食品の量の範囲なら、問題ありません。医薬品を飲む場合は、必ず医者の処方どおりに飲んでください。
阿木 骨を丈夫にするために縄跳びなどの跳躍運動が良いと聞いたことがあります。
太田 骨に重量をかけることが効果的なのです。階段を上がったりジャンプしたりする運動は悪くないのですがひざを痛めやすい。だから歩行が一番無難なのです。水泳は重力がかからないから骨のためにはあまり効果はないのですが、バランス感覚や柔軟性を養える。転倒防止にも役立ち、骨折を起こしにくくします。
阿木 背骨や骨盤のゆがみを起こさないようにするには、日常生活でどんな点に気をつければいいのでしょうか。
太田 正しい姿勢をとることが一番大切です。背骨と骨盤の角度には外国人と日本人では違いがありますし、正しい姿勢にも個人的な差があります。最近スタイルのいい若者が増えていますが、こうした体形の人で骨が丈夫な人は少ないですね。今の若者がある年代になった時には、平均寿命は今より短くなるように思います。
阿木 足が長くてスタイルの良い女性を見ると引け目を感じてしまいますが、スタイルよりもきちんとした骨密度とバランスの良い骨格が必要なのでしょうね。ところで人生はやり直しがききますが、骨も再生するのですか。
太田 骨は再生しますが、それには時間がかかります。こつこつ少しずつ蓄えていかなくてはなりませんから毎日の生活習慣が大切です。骨はだいたい寝ている間に蓄えられるのですよ。だから夜働く人は骨が少ないと言われています。骨を丈夫にするには安静と休養も必要です。
阿木 私の母は病院で「化粧をしないでください」と注意をされたのですが、こっそり口紅を引き次の日に亡くなりました。患者としては悪いかもしれませんが、同じ女性としては共感できました。女性なら誰でも、いつまでもおしゃれをして、美しくかわいくありたいと願っていますものね。そのためにもこれからは、骨についてもっと意識して行きたいと思います。
太田 そうですね。背骨が曲がってしまうと、すてきな服を着てもフィットせず、誰もほめてくれません。女性も男性も背筋を伸ばし、いつまでも若々しくおしゃれに生きるためにも背骨を大切にしてください。阿木さんのお話のように、感動する心を持ち続けることもとても大切なことですね。
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