日本人に長く愛飲されているお茶。古来「養生の仙薬」と呼ばれてきたほど、病気予防などの働きがあることは経験的に知られてきた。専門家によると、冬場に流行するインフルエンザを抑える作用も動物実験で確認されている。お茶でうがいを励行すれば、インフルエンザにかかりにくくなるという。 |
お茶の成分の中で様々な作用の主役と考えられているのが「カテキン」と呼ばれる物質。赤ワインに含まれ、動脈硬化などの予防に役立つ成分として有名になったポリフェノールの一種で、渋みの成分の本体だ。
緑茶にはカテキンの一種であるエピガロカテキンガレートという物質が、紅茶には同じくテアフラビンなどの成分がそれぞれ含まれている。カテキンは湯のみ茶わん1杯のお茶の中に100ミリグラムと、お茶に多いとされるビタミンCの数十倍多く含まれている。
お茶に含まれるカテキンの研究を続ける島村忠勝・昭和大学医学部教授は「カテキンはいくつもの異なった作用を併せ持つユニークな物質」と強調する。カテキンには?細菌を攻撃する抗菌作用?毒素を解毒する抗毒素作用?ウイルスを抑える抗ウイルス作用――などがあるという。
このうち抗ウイルス作用は様々な実験で明らかにされている。例えば、宮城県の養豚場でのブタを対象にした実験。ブタは人間同様にインフルエンザにかかる。11月から1がつまでの期間、緑茶から抽出したカテキン類を水に溶かし、普通のお茶の約4分の1の濃度にして豚舎天井のスプリンクラーからブタに直接噴霧した。
実験の狙いは緑茶成分がインフルエンザを抑える効果を持つかどうかの検証。生まれたばかりの子ブタは、母ブタから受け継いだインフルエンザ抗体を持つものの、抗体の数は年々減少していく。逆にインフルエンザに感染すると抗体が増える。この増減の具合を調べ、効果を検証しようというものだ。
その結果、緑茶成分を噴霧した子ブタは12月には抗体数がほぼゼロになり、インフルエンザへの感染が認められなかった。噴霧をやめると1ヵ月以内に抗体が増えた。
一方、比較対照のために水を噴霧しただけの近くの養豚場では、同時期に子ブタの抗体が増えており、この地域でのインフルエンザが流行していたと推測できる。
予防接種をして体内に抗体を作らなくても、鼻や口を通して緑茶成分を摂取すれば、その抗ウイルス作用でインフルエンザ予防効果が見込めることを示しているという。島村教授は「噴霧しただけで効果が見られたのがこの実験のおもしろいところ」と解説する。
お茶の抗ウイルス作用をうまく利用する方法がお茶を使ったうがいだ。お茶どころ静岡県の榛原町にある坂部小学校では、インフルエンザが猛威を振るう11月から2月くらいまで、緑茶うがいを励行している。体育の後、給食の前など日に3−5回行っている。お茶は水筒に詰めて生徒が持参したものだ。
インフルエンザが流行した1998年初め、生徒の欠席率は近隣の小学校と比べ明らかに低い数値となったという。うがいに使うお茶は、いわゆるお茶の木から作られるお茶ならば紅茶でもウーロン茶でもよいそうだ。
島村教授は「お茶を使ううがいはインフルエンザにかかった人が他の人にうつすのを防ぐのにも有効」と話す。島村教授らの実験ではお茶は市販のうがい薬とは働き方が違う。市販薬がウイルスなどを殺菌してしまうのに対して、カテキン類はウイルスの増殖を抑える働きがあるという。
とはいえ、お茶でうがいをするだけでよいわけではない。規則正しい生活とバランスのとれた食事も欠かせない。すべての細菌やウイルスに効くわけではないし、万病を予防するわけでもないのだが、毎日、手軽に続けられる点はお茶ならではの長所といえよう。
お茶でうがいをするときのポイント
・カテキンが含まれるお茶を使う
(緑茶、紅茶、ほうじ茶、番茶、ウーロン茶など)
・お茶は熱くても冷たくてもよい
(熱いお湯で入れるとカテキン類がよく抽出されるが、やけどの注意)
・薄いお茶でも可
(2、3番せんじでもよい)
・砂糖やミルクは入れない
(糖分があると効果が落ちる)
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