米国に住む人がうらやむ日本の医療制度の1つに、病院や診療所へのフリーアクセスがある。「通院の自由」とでも訳せようか。すべての国民が公的な健康保険制度に入り、保険証を持っていれば患者は自分の意志でかかりたい医療機関を選び、診療を受けられる。
米国では契約している保険会社が指定した病院に行くのが原則だ。だが、日本でフリーアクセスは空気のようになっており、日本人がこの貴重な仕組を生かしきっているかというと、疑問符が付く。自由に通院するための判断材料がまだまだ乏しいからだ。
病院を探すとき、ご近所の評判が決め手になることが決め手になることが結構ある。「あの先生は懇切丁寧に診てくれる」「あそこはどうもヤブらしい」――。こんな世評はどこの地域にも流れているものだ。根拠がないうわさとは言い切れないが、客観性に欠ける面は否めないだろう。
最近は多くの病院がインターネット上のホームページを開設しており、患者の判断材料は徐々に増え、充実されつつある。厚生労働省も昨年、医療機関の広告規制を緩めた。広告できるようにしたのは病気ごとの患者数、患者の平均在院日数、手術の件数など。広告内容が病院名と診療時間、診療科目などに限定されていた時代に比べれば前進だ。
だが、患者やその家族が本当に知りたい情報が十分に公開されているところまではいっていない。医療はサービス業だ。サービス業は顧客(患者)の満足度を満たさなければ、継続する事が難しくなるはずだ。そうした観点を重視すれば、開示するのが望ましい情報が見えてくる。
病院に情報開示を促すには、病気の種類を治療にかかる人件費や医薬品などの必要度をもとに、病名グループごとに仕分けした「DRG」(診療群分類)を活用するのが望ましい。こう呼びかけているのは東京医科歯科大大学院の川渕孝一教授(医療経済学)だ。
DRGによって病名は500−1500のグループに分けられる。DRGは医療機関の診療上の改善点を明らかにし、病院経営を効率化するために米国で開発された。川渕教授の提案はこの分類をもとに、治療にかかった医療費と死亡率、再入院率、手術後の感染率などを病院ごとに比べられるようにするというものだ。
患者の個人情報をどう守るかという課題はあるが、実現すれば病院は医療の質を競うようになり、恩恵は患者に及ぶ。
高齢化が加速するなかで健康保険制度を運営している国、自治体、企業の懐具合は苦しくなる一方だ。できるだけ安い費用で効果の高い医療を提供する病院を増やすことが欠かせない。それには、そうした病院を患者らが選べるようにすることが早道だ。
厚労省が音頭をとってこの仕組を全国に取り入れるのが理想だが、制度改革には時間がかかる。意欲のある病院は率先して情報を出していくことが大切だ。院長や理事長の指導力が問われる。
ただ、県や市などが設立した自治体病院の中には、トップが病院改革に積極的でも地方公営企業法の制約があるために、予算や人事にさい配を振れない例もあるようだ。独立法人化などを推し進め、トップが改革に存分に取り組める体制を整えることも首長の仕事だろう。
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