長寿と飲食物の関係は昔から人々が追及してきたテーマの一つだ。だから、長生きの人が多い地域の食生活には注目が集まる。
地中海地方も長寿の人が多いという。食事にたくさんオリーブ油を使っているためだとか、赤ワインをよく飲むからだといわれている。
このうち、赤ワインの中にはポリフェノールという物質が含まれていてこの物質が心臓病を予防していると報告されている。実際、赤ワインの産地など赤ワインを飲む地方の人に心臓病の発症が少ない傾向がみられる。
米ハーバード大学医学部のシンクレール博士らの研究チームは、赤ワインの成分と寿命を伸ばす長寿遺伝子との関係を調べた。その結果、赤ワインの中に含まれる物質が寿命を伸ばす長寿遺伝子の働きを活発にしている可能性があることを突き止めた。
ワインに含まれる物質とはポリフェノールの化合物の一種でレスベラトロルという。シンクレール博士らは試験管内で直接この化合物を酵母に作用させたところ、酵母の寿命が70%延びた。
博士らが突き止めたレスベラトロルの直接作用とする寿命遺伝子はSIR2という。この遺伝子は、種々の遺伝子の働きに関係し酵母の寿命を制御していると考えられる。
レスベラトロルは若い赤ブドウの実から抽出するエキスの中に含まれる成分だ。シンクレール博士らが酵母に与えたワインの量を人間に置き換えるため平均体重をもとに単純に換算すると、毎食グラス一杯の赤ワインを飲むのに相当するそうだ。
ただし、酵母の長寿遺伝子と人間の長寿遺伝子の働き方はまったく同じとはいえないので、グラスいっぱいが果たして長寿につながる適量なのかどうかは分からない。
研究チームはさらにカロリー制限による寿命延長効果とレスベラトロルの関係も検討した。適度なカロリー制限によって動物の寿命が延びることを以前にも紹介したが、酵母でもカロリー制限の寿命延長効果が確認されている。
研究チームの分析の結果、興味深いことにカロリー制限した酵母と、このポリフェノールの仲間を与えた酵母は同じように長生きしたという。このことから、研究チームはカロリー制限で寿命が延長する仕組みの一つとしてSIR2寿命遺伝子の作用が高まる機構があるものと考えている。
ポリフェノール化合物などの多くは果物や野菜などにも含まれており、長寿の人たちはそうした食物もバランスよくとっている。シンクレール博士らの研究はこうした食生活らの重要性を遺伝子レベルで説明している。
(東京都老人総合研究所研究部長 白澤 卓二)
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