バランス感覚養う
腰痛もさようなら

 

直径50センチ前後の大きなボールを使った運動が人気だ。座って弾んだり体を預けてストレッチをしたり使い方はさまざま。バランス感覚や柔軟性を養うことができ、しなやかな体作りにも役立つ。子どもからお年寄りまで無理なく楽しみながら体を動かせるのが、支持されているようだ。

「何がうれしかったかと言えば腰痛がなくなったこと。半年前までは痛みであおむけにさえなれなかった」。こう語るのは東京都足立区の会社員、永田絹江さん(23)だ。腰痛の原因は重いダンベルや負荷の大きいマシンを使い、無理な筋トレを続けたこと。運動をやめ鍼灸(しんきゅう)にも通ったが、症状は改善しなかった。

ところが今年2月、友人に薦められ、このボールを使ったトレーニングを積極的に取り入れているジム「ジェフスフィットネス」(東京・渋谷)に通いだして変わった。ストレッチとボールによる運動を始めて2カ月ほどで腰痛が消えたという。「腰への負担が少なく全身を鍛えられ、体のバランスもよくなった」と永田さんは笑顔で話す。

スイスで実用化
「バランスボール」「スイスボール」「Gボール」などと呼ばれるこのボール。日本で本格的に普及したのは、2、3年前だが、歴史はかなり古い。

筑波大の長谷川聖修助教授(体操方法論)によると、約40年前にイタリアで開発され、スイスの理学療法士が身体障害児のための訓練道具に使い始めたのが最初。その後、運動プログラムが開発され、けがをしたスポーツ選手のリハビリ用としても使われるようになった。日本ではゴルフや野球、マラソンなどのトップ選手らがトレーニングメニューに取り入れている。

この運動の利点は、定期的に続けることでバランス感覚や体の柔軟性を養え、筋力を強化することもできることだ。例えばボールに座るとき、体重を床に垂直にかけないと姿勢がふらつきやすい。良い姿勢を保つため足首からひざ、でん部、腰、腹部まで筋肉を総合的に使い、体の軸を安定させようとする。「子どもやお年寄りがバランス感覚を鍛えれば、偶発的な転倒から身を守ることもできる」と長谷川助教授は指摘する。

遊び感覚で体を動かせるのもいい。マシンでの鍛錬や腹筋運動は単調な動きの繰り返し。ボールを使えば「大人も童心に帰ったように楽しみながら全身を鍛えられる」(長谷川助教授)。選手向けのハードな運動から、子どもやお年寄りもできる簡単な運動まで応用範囲は実に幅広い。

ボールの大きさは上に座って、腰とひざの角度がほぼ直角になるサイズが最適。小中学生なら直径45センチか50センチ、身長が170センチを超える大人なら65センチが目安だ。価格は3千円代から6千円代。イタリア製ボールを輸入販売するギムニク(大阪市)によると、最近は学校やスポーツ施設に加え、個人が購入する例も増えているという。

出産後のリハビリ

トレーニング方法もさまざまだ。ボールの上で姿勢をただし、垂直に座ることから始める。弾んだりつま先やひざを挙げたり、おなかをボールの上に乗せて腕立て伏せや背筋運動をしたりする。また、ストレッチにも利用できる。わき腹を乗せて体の側面、ボールの上でブリッジすることで背骨周りを伸ばすこともできる。自宅で運動する場合、じゅうたんや畳の上ならバランスを崩しても安心だ。

「ジェフスフィットネス」代表のジェフェリー・ライベングッドさんは、よい姿勢を維持することと腹式呼吸をこころがけることが大切と強調する。
出産後の女性のリハビリにも効果がある。「産後のボディケア&フィットネス」を主宰するトレーナーの吉岡マコさんは「産後の女性は骨盤が不安定。腰や骨盤への負担をかけずに身体を鍛えられるボール運動は有効」と話す。

吉岡さんの教室に参加する村田亜由美さんは「出産後、腰痛に悩んでいる。ストレッチしただけでも心地いいし楽しい」と満足気だ。

「あわてず、あせらず、あきらめず」。マイペースでじっくり取り組んでみてはどうか。

1日3分を目安にしたトレーニングの例
目的とポイント

・ウエストや下腹部周りの腹筋群を締める
・背筋をまっすぐ。姿勢維持がつらくなったら休む。3分維持が目標だが初めは10−30秒維持し、繰り返す。
・背筋やヒップの大殿筋、太ももの裏の筋肉を刺激
・かかとをボールに乗せる姿勢がきつければ、ふくらはぎを乗せてもいい。3分維持が目標だが、何回か繰り返してもいい
・背筋を鍛えて、体のラインを美しく保つ
・おへそを中心にお腹をボールに密着させる。慣れてきたら、ボールに乗せる位置を下にずらす
(ジェフスフィットネス監修)

 

2004.9.18 日本経済新聞