負担かけず 筋力アップ

腰痛やひざの痛みに尿漏れ――。年をとるとあちこちが傷み、様々な症状が表れる。痛いと体を動かさなくなるし、尿漏れが心配で外出も控えるようになることもあり、悩みは深刻。問題解決に有効な自宅でも簡単にできる「プチ体操」はいかが。

●五十肩

中年以降に、多くの人が経験するのが五十肩。加齢に伴い、肩の関節が固くなり傷んで炎症を起こす。激しく痛む最初の1−2週間を過ぎ、痛みが和らいできたら、積極的に動かしたほうがよいという。

日本医科大学の伊藤博元教授は、誰にでもできる「アイロン体操」を勧める。机などにもたれ腰をかがめた姿勢をとり、アイロンや鉄アレイなど1キロ程度の重りを痛む側の腕で持つ。肩の力は抜いたまま全体をゆするようにして、腕を前後左右に動かす。

お風呂に入って体を温めてから実行すると一層効果的。このほか、壁に手のひらをあてて少しずつ上げていく体操もよい。腕の上がる範囲が広がる。伊藤教授自身、50代になり両肩が相次いで痛み出したが、「体操を半年ほど続けたら、痛みもなくなり腕も元通り動かせるようになった」。五十肩の痛みは1年もすれば消えるが、体操は直りを早めるほか、腕の動きをよくする効果がある。

●腰痛

整形外科を訪れる50−60代で最も多いのが腰痛。椎間(ついかん)板ヘルニアや骨粗しょう症など原因は様々だが、痛みの軽減や再発予防には、腰周りの腰背筋やおなかの腹筋を鍛えることが有効だ。東京都老人医療センターの林泰史院長は「鍛えた筋肉が"自家製コルセット"として腰を支える」と説明する。

うつぶせになって頭や脚を上げ下げすると、腰背筋の鍛錬になる。腹筋を鍛えるにはあおむけの姿勢で頭や胸を上げ下げする。目安は朝昼晩10回ずつ。無理のない範囲で少しずつ回数を増やす。ただ骨粗しょう症の人は慎重に取り組む必要があるという。

日常生活では?柔らかすぎるベッドやマットを避ける?イスには深く腰かけ姿勢をよくする?物を持つ際はひざを曲げる――など腰に負担がかからないように工夫する。

●ひざの痛み 
ひざの痛みは腰痛に次いで多い。ひざの関節は構造が複雑で多様な動作ができるが、負担も大きい。年をとるにつれて軟骨がすり減るなどして痛みが出る。ひどく痛む場合は?減量?ツエの使用?サポーターの着用――など、ひざへの負担を減らすことが対策の基本になる。

ただし林院長は運動が大切と語る。中高年で弱る筋肉はひざを伸ばすのに必要な大腿(だいたい)四頭筋。ここが衰えるとひざが不安定になり、余計な負荷がかかる。

負担をかけず鍛えるには、イスに座ったままひざをまっすぐに伸ばし3−5秒ほど止めて下ろす動作を朝昼晩10回ずつ繰り返す。楽にこなせるようになったら、足首に500グラムから1キロ程度の重りをつけるとよい。
痛みが強いときは、寝ながらひざの裏に丸めたタオルなどを置き、それを下に押しつけるだけで同じ訓練になるという。「まじめに1カ月も続ければ大抵の人で痛みが和らぐ」(林院長)

●尿漏れ

中高年女性などで悩みが深刻なのが尿漏れ。尿道を締める骨盤底筋は、子宮やぼうこうを支える働きもある。これが妊娠・出産や加齢で痛むと、せきやくしゃみの拍子に漏れるようになる。

予防体操はまず、イスに座った姿勢やあおむけの状態でおなかの力を抜く。そこで意識して尿道やこう門を締める。5秒続けたら10秒休むペースで1日50回が目安。ひざの間にクッションやボールを挟んで締めつけるような、腰から下の筋肉を鍛える体操も組み合わせると効果的だ。

東京都老人総合研究所の尿失禁予防教室で体操を学んだ女性のBさん(74)は「以前は漏れが気になって仕方なかったけれど、1年ほど続けたらほとんど"失敗"がなくなった」と笑顔を見せる。同教室の運営に携わる東京女子医科大学の中田晴美助手は「早い人は2−3カ月続ければ改善する」と語る。
痛みを和らげる体操(痛みの強さなどに応じて無理ない範囲で)


ひとくちガイド
《本》

◆関節の痛みや予防法なら
『肩・腰・膝――痛みのクリニック』(林泰史著、山海堂)

《パンフレット》

◆尿漏れ予防などを知るなら
『いつまでもイキイキ生活』(東京都老人研作成、健康と良い友だち社)

問い合わせは同社へファクス(03・5765・4892)で。

ことば

▼臨床試験(治験)
新薬などの効果や安全性を人間を対象に調べる臨床研究の一種。有効な疾患の拡大や使用法変更の検討を含む。特に、国への承認申請を目的とするものを治験と呼ぶ。
抗がん剤の場合、少数の患者を対象に主に安全性を調べる「第一相」、少数の患者で腫瘍の縮小効果などを調べる「第二相」、多数の患者で延命効果を中心に検証する「第三相」の3段階に分かれる。薬事法に基づくGCPというルールが治験の手続きを厳密に定め、患者を保護する仕組みになっている。
2004.11.14 日本経済新聞