散策などで相乗効果
じっくりと温泉につかって疲れたからだを癒やす温泉療法が中高年の間で人気だ。単に温泉ざんまいで過ごすのではなく、温泉地で軽い運動や散策を組み合わせて心身ともにリフレッシュする。「現代版の湯治」を体験するために強羅温泉(神奈川県箱根町)を訪ねた。 |
強羅温泉で昨年12月から週2回ペースで民間活力開発機構(東京・中央)が開く「健康づくり大学」。毎回、50−60代を中心に男女20数人が参加する。2泊3日のコースは、糖尿病や高血圧など生活習慣病への予防法に対する医師の座学で始まった。入浴講座では、体に優しい温泉の入り方が指南される。
まず「かけ湯」。湯を汚さないためのエチケットと思いがちだが、実はほかに重要な目的がある。湯の温度に体を慣らすことだ。からだが冷え切った冬場などは、入浴時に血管が急に拡張したり心臓に負担がかかったりしないよう、足から腰、肩、胸と入念に湯をかけた方がよい。
湯船につかるのもまずは半身浴から。ポカポカと体が温まってきた段階でゆっくりと全身までつかるようにする。心疾患や高血圧症の人は半身浴にとどめておきたい。
最初の入浴時間は5分間から10分間で、額がほんのり汗ばむぐらいが目安。20分以上も入浴すると多量に汗をかいて水分が失われ、心肺への負担が大きくなる。体が温まったところで湯船から一度出て、5分ほど体を休める。その後、もう一度約10分間入浴すると、血行が良くなったころに効能成分や温熱効果がうまく作用する。
腰をひねったり肩を回したりすると縮んでいる筋肉が伸ばされ筋肉痛や関節痛の痛みが治まる効果もある。1日の入浴回数は3回まで。入浴は予想以上に体力を消耗するため、入りすぎると健康にとっては逆効果になる。
水分の補給も怠らないようにしたい。脳こうそくや急性心不全になるのを防ぐためだ。コップ1,2杯の水分とミネラル補給が必要で、入浴中か入浴後にスポーツドリンクか、かんきつ系のジュースを飲むようにする。風呂に長居する覚悟なら、ペットボトルに入ったスポーツドリンクなどを持参する。
健康づくり大学でユニークなのが水中運動講習と森林浴ウオーキング。温水プールではまずストレッチ体操。壁に背中をつけてひざを引き寄せ、腰周りの筋肉を伸ばす。プールサイドに片手をかけ、もう一方の手で足を引き上げ、太ももやお尻周りの筋肉も伸ばす。浮力も手伝って地上より楽にストレッチできる。
その次は水中歩行。背筋を真っすぐにして、足の裏全体をプールの底に付けて歩くことを心がける。横歩きや後ろ歩きと組み合わせることで筋力アップと転倒予防のバランストレーニングになる。
森林浴ウオーキングは30分から1時間半、体力に合せて休憩を挟みつつゆったり歩く。疲れないぐらいでちょうど良い。
水中運動もウオーキングも、無理をしないことが大切だ。「運動による体の活性化と入浴によるリラックス効果が複合的な刺激となり、生体機能を効果的に高める。その分、癒やし効果も高まる」と内幸町診療所(東京・千代田)の植田理彦・院長は解説する。
奈良時代からあるとされる湯治の風習。かつては農閑期に米を持参して温泉地に約1カ月滞在した。朝市でその土地の産物を買って食べて、神社や寺にお札参り。休養と栄養、運動を上手に組み合わせ1年分の疲れを癒やした。
「湯に入るだけでなく、一定期間、旬の食材を食べ、適度な運動をすることで温泉の効果は発揮される」と植田院長。民間活力開発機構は、4月から健康づくり大学を強羅温泉だけでなく全国6−12カ所に拡大する計画だ。
水圧で足の疲れやむくみが取れる。血液の循環も良くなる。温熱効果は新陳代謝を促すほか、筋肉や関節の痛みを和らげる。いずれも温泉が体にいいとされる効果だ。
全国に60施設以上ある温泉病院では、温泉療法医や理学療法士の指導のもとでリウマチや関節炎などの患者を対象に入院や通院で2週間から3カ月かけて治療も行われる。ただ、温泉の効能で病気がどこまで治るのか、科学的によくわかっていない。
日本温泉気候物理医学会は、全国に散らばる研究成果の収集を始めた。実証データを体系化すれば「将来は温泉療法のガイドラインづくりも可能になる」(聖マリアンナ医科大学の東威・客員教授)。学会の調査だと、3−7日の短期間の温泉療養でも生活の質(QOL)を改善する効果があることが分かってきたという。
《本》
◆温泉療養の宿やアドバイザーを探すなら
『温泉療養の手帖 第4版』(民間活力開発機構)※4月に新版が発行
《ホームページ》
◆温泉の基礎知識や入浴法のハウツーを調べるなら
ツムラ温泉科学プロジェクト
(http:www.onsenkagaku.com/)
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