座面の形や高さ イス選びで注意
骨盤で体支え、腰の負担軽く


イスやソファ、車の運転席など1日のうちで座って過ごす時間は結構長い。座る時の姿勢は立ったり歩いたりする時の姿勢よりも個人差が目立ち、毎日、正しく座っているかどうかで腰や肩への負担も違ってくる。体にあったイスの選び方や、快適に座るためのちょっとしたコツを教えよう。

イスの座り心地は、お尻と座面との相性によって決まる。早稲田大の野呂影勇教授は、形の違う10種類のイスで座り心地を比べる実験をした。イスの材質やクッションの有無よりも、座面がお尻の丸みにピタリとあうような形をしていると、「心地よい」と評価する人が多いことがわかった。

中高年になると、どうしてもお尻の筋肉が落ちて「お尻がへたる」。お尻の下の左右2カ所の骨が座面に当たるようになると、長年慣れ親しんできたイスでも痛みを感じやすくなることもある。こうした場合は、座布団を敷いて体重のかかり方を分散させれば、座り心地は取り戻せる。

イスを選ぶ際、座り心地は時間をかけて確かめること。野呂教授によると、「ショールームなどへは雑誌などを持ち込み、最低でも20分間は座ってみるべきだ」という。長時間だと誰でも何回か無意識に座り直すが、この回数が少ないほどイスとお尻の相性はよい。座り心地を判断する目安になる。座った瞬間は気持ちよいと感じても、時間がたつうちに何となく落ち着かなくなるイスは避けたい。

もうひとつ大切なのが座面の高さと傾き。デザイン性に優れ人気が高い輸入家具だが、室内でも靴を履いて過ごす欧米スタイルに合わせてあるため脚が長く、座る面も後ろに傾いているものが多い。こうしたイスに背の低い人が座ると、足が床に届かずにぶらぶらした状態になる。ひざの後ろの血管や神経などが圧迫され、脚のむくみやしびれを引き起こす。座面の傾斜が強すぎると疲れやすくなる。

「格好いいイス」がどうしても欲しくなったらどうするか。家具のデザインを手掛けるいのうえアソシエーツ(東京・港)の井上昇社長は「座面に厚さ2センチのクッションを敷いたり、4−5センチの高さの足台を使ったりするとよい」とアドバイスする。

高齢者や自宅でパソコンなどに向き合う時間が長い人にとって意外と便利なのがオフィスチェア。座面の高さが自由に変えられ、腕を支えるひじ掛けもある。機能性を最優先して設計している商品が多く、長時間座っても疲れにくい。

イスに比べより快適性が求められるソファだが、座面の奥行きが長過ぎると背もたれに背中が届かず無理な姿勢を強いられる。クッションをうまく活用すると、体への負担は解消できる。20センチ四方の小さなものを用意し、リラックスできる体勢を追及し、腰の後ろなどソファと体とのすき間を埋めていくのがコツだ。

胸板が厚く上半身が発達した欧米人と違い、日本人には下半身がしっかりとした人が多い。着物は骨盤に帯を巻き、武道では重心を低くするが、これは上半身をリラックスさせ下半身でしっかりと支える日本古来の「上虚下実」に基づく。武蔵野身体研究所(東京都武蔵野市)は、この日本人の体の特徴を最大限取り入れたイス作りに取り組む。

背もたれが腰ではなく骨盤にあたるようになっている。市販のイスのように体重を腰で支えないため、腰椎(ようつい)と呼ぶ腰の骨に過度な負担がかからず、周りのじん帯も痛みにくい。「腰椎の下の頑丈な骨盤で体を支える習慣を身につければ、腰痛などになりにくい」(矢田部英正所長)という。

骨盤はお尻のやわらかい部分の上にあり、手で触れると誰でも簡単にわかる。ソファや車の座席に座る時、骨盤の真ん中に厚さ2−3センチで板のような硬めのものをあてると骨盤に体重がかかり、腰への負担が軽減できるそうだ。

2005.5.22 日本経済新聞