体内でアミノ酸に
大豆ペプチド
増える商品・なお未解明な点も

大豆から作られる「大豆ペプチド」と呼ぶ成分が、健康にいいと注目が集まっている。ストレスを軽減して疲労感や眠気を抑え、運動後の筋肉の回復を助ける効果も期待できるという。蒸し暑くバテやすいこれからの季節を乗り切る心強い味方になりそうだ。

週3回、職場で夕方に大豆ペプチドを飲み続けると仕事によるストレスが軽くなる――。こんなユニークな調査結果を早稲田大学理工学部の渡部卓講師が発表した。

調査対象は営業・管理部門で働く20−50代男女200人。75項目のストレスチェックに回答した後、普段通り仕事を進めながら、大豆ペプチド8グラムを含む飲料を週3回、夕方に飲んでもらった。

3週間後に再びストレスチェックを実施したところ、大豆ペプチドを飲んだグループは飲まなかったグループに比べ「落ち込みや不安、体の疲れやだるさなどストレスによる心身の影響が軽減した」(渡部講師)。

秋田大学医学部の本橋豊教授らは大豆ペプチドにリラックス効果があるかどうか実験した。男性9人に夕方、大豆ペプチドを摂取してもらい脳波を測定した。摂取から20分後に脳が疲れにくい状態であることを示す「α2波」が増加することを確認した。

一方、東北福祉大学の畠山英子教授らは、被験者に暗算してもらい、脳の状態を計測。大豆ペプチドを摂取すると脳の負荷が軽減し、作業後に分泌されるストレスホルモンの量が低下することを発見した。「脳のストレスが緩和し、冷静・沈着に作業を進められるようになる」と畠山教授は推測する。

大豆ペプチドは大豆のたんぱく質を分解して作る。たんぱく質の「部品」であるアミノ酸が数個つながった物質で、小腸から短時間で吸収され、体内でアミノ酸に分解される。このアミノ酸が筋肉や脳の栄養源となる。みそやしょうゆにはごく微量含まれているが、豆乳や豆腐には含まれていない。

アミノ酸はアテネ五輪メダリストの体作りに一役買った。「アミノ酸をまとめて摂取できる大豆ペプチドも、アスリートの疲労回復や筋力向上などの効果が期待できる」と運動科学に詳しい村松成司・千葉大学教授は説明する。

大豆ペプチドを含む健康飲料や健康食品は増えてきた。大豆ペプチドを研究する業界団体「大豆ペプチド健康フォーラム」によると、コンビニエンスストアなどで見かける主要製品が機能性飲料、飲料ゼリーなど5社8製品。市場全体で見ると50社100製品以上が流通しているという。通信販売で粉末や錠剤製品も入手できる。

大豆ペプチドには独特の苦味がある。各社とも味付けに試行錯誤した結果、「商品が出始めた1年前から比べるとだいぶ飲みやすくなった」と、大豆ペプチドのファンだというIT(情報技術)ベンチャー、ゼロエクス社長の広瀬光伸さん。同社の冷蔵庫には広瀬さんが自腹で購入した大豆ペプチド飲料が並ぶ。社員にも好評で約50人が1日1本手に取る。「クリエイティブな発想につながれば」と広瀬さんは期待する。

健康フォーラムによると、このほか数社がリラクゼーションルームなどに大豆ペプチド飲料など関連商品を置いているという。

丸の内オアゾ(東京・丸の内)の地下1階、スイーツ専門の「サムシング・ルージュ」では大豆ペプチドを添えたミルクセーキなどを販売中。東京・西麻布のバー「サウンドバー・U」では、大豆ペプチド入りのカクテルを提供する。味も一工夫してあり、大豆ペプチドを楽しむすそ野は広がってきた。

大豆ペプチドをいつ、どのくらいの量を飲めばいいのだろうか。

村松・千葉大教授は「1回4グラム以上が一応の目安。薬と違って必ず効果が出る量や上限が決まっているわけではない。無理に時間を決めず、疲れを感じた時に飲んでみては」と勧める。管理栄養士の新出真理さん(ヘルスサポート研究会カナン代表)は「朝食をとれなかった時や夕食が遅くなりそうな時に飲めば、栄養欠乏による体の消耗が少し軽くなる」と期待する。

ただ、大豆ペプチドの性質は謎につつまれている部分が多い。アミノ酸の組み合わせにによる効果の差や、体内に吸収される詳しい仕組みなどはほとんどわかっていない。肝心の吸収速度もアミノ酸単体の方が速いという正反対の研究結果が別のグループから発表されている。

過度な期待を抱かなければ、心身をリフレッシュさせる食品として重宝するかもしれない。

2005.6.25 日本経済新聞